DXを推進するビジネスパーソンに求められること

[執筆者]
内池 もえ

ビジネスサイドの人間だから技術的な知識は不要、とは言えない時代に

こんにちは。リードデータサイエンティストの内池です。

本稿では、これまで複数の機械学習や数理最適化の案件に携わってきた立場から、「DXを推進するビジネスパーソンに求められること」についてお伝えします。現場でDXを推進する方から意思決定者まで、様々なポジションの方の参考になれば幸いです。

初めに強調しておきたいのは、2021年現在、既に「自分はビジネスサイドの人間だから技術的な知識は不要」とは言えない時代に突入しているということです。かつてOfficeソフトやロジカルシンキングがビジネスに必要不可欠な道具とされたように、現在は統計やコンピュータサイエンスの知識を道具として利用していくことがDXを推進するビジネスパーソンに求められます。

なぜ、技術的な知識が必要なのか

それでは、具体例を挙げて考えてみましょう。
例えば、DXを推進していく中で統計を見て意思決定をしていかなければならない場面があり、その統計では「平均値」ではなく「中央値」や「データの分布」に着目しなければ正しい解釈が得られないとします。そのような場面に遭遇した時に、使いこなせる道具が「平均値」の概念だけだとしたらどうでしょうか。統計の解釈を誤り、間違った意思決定をしてしまうかもしれません。

いわゆる「AI」を支える技術である機械学習 (あるいは深層学習) を正しく理解していない場合はどうでしょうか。
例えば、機械学習により商品の需要を予測するモデルを作成するとします。需要予測モデルといえども、モデルは過去のデータから学ぶことしかできませんが、学習〜予測の過程を正しく理解していなければ「未来予知」ができると考え、パンデミックのような未曾有の状況下でも正しく予測ができると判断してしまうかもしれません。このように、機械学習にできることとできないことの境界線を見誤り、効果の出ない投資をしてしまうことも考えられます。

「専門家側が専門用語を使わずに、ビジネスサイドにもわかるように説明するのが筋ではないか」という意見もあるかもしれません。私たちデータ分析者は、できるだけ平易な言葉で説明するように心掛けていますが、実際にはそれだけでは不十分です。上記の例のように、「中央値」や「データの分布」の概念を知らなければ膨大なコミュニケーションコストがかかりますし、本質的な理解に至らなければ判断ミスに繋がる原因にもなります。

「本質的な理解」をビジネスサイド、技術/専門サイドが相互に行えないと、DXは円滑に進まない。

ポジティブな面についても見ていきましょう。例えば、先程の例と同様に、機械学習により商品の需要を予測するモデルを作成するとします。商品の需要を予測するためには、商品に関連する多数の情報を「特徴量」として定義し、モデルに学習させる必要があります。この「特徴量」は通常データ分析者が定義し、加工していくものですが、データ分析者が豊富なドメイン知識を持っているとは限りません。そこで活躍するのがビジネスサイドの方々です。ビジネスサイドの方が技術的な知識を持ち合わせていれば、豊富なドメイン知識を駆使して「この情報が特徴量として利用できるのではないか」という提案ができるかもしれません。このような提案が、時にモデルの性能を飛躍的に向上させ、本番稼働のために必要な要件を満たす決め手となるのです。

このように、DXを推進するビジネスパーソンが技術的な知識を身につけるメリットは枚挙にいとまがありません。2021年現在は、質の良い情報をネットで収集することができます。 (統計WEBなど) 情報処理試験や統計検定にチャレンジするのも良いですし、AtCoder等の競技プログラミングコンテストをきっかけにプログラミングに触れてみるのもいいでしょう。

現場でDXを推進する方はもちろんのこと、意思決定者を含め、DXに関わる全てのビジネスパーソンが「道具」を使いこなすリテラシーを高めることが、DX推進に繋がるのではないでしょうか。

機械学習の社会実装を阻む「罠」と、その解決方法

前章では、「道具」を使いこなすリテラシーを高めることの重要性についてお伝えしました。本章では、機械学習プロジェクトを例にとり、社会実装を阻む「罠」について触れることで、現実のDX推進プロジェクトで発生しうる課題についてイメージしていただきたいと思います。

罠①:モデルの性能、どう測る?

機械学習のプロジェクトでは、抱えている課題を機械学習モデルで解決できるかどうかを確かめるため、必ずPoC (概念実証) を実施します。このPoCの段階では、以下のような罠が待ち構えています。

  • 意思決定者が機械学習モデルに過度の期待をしていたが、事前の説明が不十分なまま結果報告のタイミングを迎えてしまう
  • 意思決定者がモデルの性能指標を理解できない、あるいはモデルの性能がビジネス上の利益に結びつく実感が湧かず本番稼働に向けた投資の判断ができない
  • モデルの解釈性が低く、そのモデルを信頼する根拠として不足があるため、検証結果に納得してもらえない

このような罠を回避するためには、以下のようなことに取り組む必要があります。

  • 「良いモデル」を綿密に定義し、事前に役職者を含めて合意を取っておく
  • 誰にでもわかりやすく、かつ本質を損なわない指標を定義した上でバックテストを実施する
  • 無理に深層学習などの最新の手法を採用せず、回帰木などの解釈性の高いモデルも候補に入れて検証を進める

罠②:学習データにない未来

前章でも述べた通り、機械学習モデルには「未来予知」ができません。本番稼働後に、以下のような罠が待ち構えている可能性があります。

  • 学習データの期間に存在しないイベントが行われることになったが、実施可否や開催規模が直前になっても読めない (例:東京2020オリンピック)
  • 観測史上最大の台風が日本列島に上陸し、猛威を振るう見込みである (例:2019年 台風19号)
  • 突然のパンデミック。モデルはパンデミック時の傾向を学習しておらず、妥当な予測ができる保証がない (例:新型コロナウイルスの蔓延)

このような罠に対応するためには、以下のようなことに取り組む必要があります。

  •  解釈性の高いモデルやルールベースのアルゴリズムとの二段構えの仕組みを構築し、必要に応じてスイッチできるようにしておく
  • 緊急時に運用回避できるよう、緊急時用のオペレーションを組み、日頃から運用担当者に周知しておく
  • 現場の状況を丁寧にヒアリングし、モデルの利用可否や利用再開タイミングについて、モデルの特性と状況を踏まえて1つ1つ判断していく

取り組みを成功させるためには、技術的な知識を身につけた上で (統計の知識を使いこなす、様々な機械学習モデルの特性を把握する 等) 、更にそれらを応用してビジネスとリンクさせていく力が必要になることがおわかりいただけるかと思います。

もちろん、実際のプロジェクトで起こりうることは上記2つの罠だけとは限りません。予期できないことや、前例のないことが起こることも考えられます。そういった時に、技術的な知識を駆使し、未踏領域に対して正しく想像力を働かせて対処していくスキルが求められます。

パーティーを組んで総力戦でDXを推進

DXの本質は単なるIT化の取り組みではなく、「ITの力で業務や生活を変革していくこと」です。前章でも感じていただけた通り、この壮大な目標は鋭いビジネス視点だけでは達成できませんし、技術面に長けているだけでも達成できません。しかし、広範なスキルを持ち合わせている人材はまずいないため、現実的な解決策を見出す必要があります。

解決策の一つは、スキルセットの異なる人材でパーティーを組むことです。もちろんパーティー内の全員が技術的な知識を身につけている必要がありますが、それぞれの得意領域が分かれていても、パーティー内で補完できれば良いという考え方です。

RPGに例えると、勇者だけではDX推進チームは成り立ちません。データサイエンスに長けた魔法使いが必要不可欠ですし、豊富なドメイン知識を駆使してビジネスを推進する戦士も必要不可欠です。システムとして動かすことを見据えると、ITインフラを支える僧侶のようなメンバーも必要になってきます。多様性に富んだパーティーを組み、互いに刺激し合いながら総力戦でDX推進に取り組んでいくことが求められます。

パーティーを組み、DXという戦いに挑みたい。
※画像はRPGのイメージ

ゆくゆくは戦士や魔法使いがデータサイエンス/ビジネスを学んで魔法戦士となり、日本のDXを加速させていくことを信じています。

本稿が日本のDX推進の一助となれば幸いです。

WRITER執筆者プロフィール

株式会社ブレインパッド

アナリティクス本部
アナリティクスサービス部
内池 もえ

日系コンサルティング会社を経て2019年にブレインパッドに参画。機械学習を用いた需要予測の事例や、金融商品取引の分析事例を担当。昨今は汎用ソルバーを用いた数理最適化の事例にも従事。フィージビリティの検証からKPI設計までトータルで支援。機械学習をはじめとした技術の「社会実装」の実績をもつ。東京大学グローバル消費インテリジェンス寄付講座 (GCI) 2020 Summer 特別講師。

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