DOORS DX

ベストなDXへの入り口が
見つかるメディア

DX時代に不可欠な、データ活用人材を育成するコツとは~累計7万人以上の育成経験を通して見えてきたこと~

執筆者
公開日
2020.10.30
更新日
2024.02.17

世の中はDX(デジタルトランスフォーメーション)の真っ只中で、どの企業もデジタル化が強く求められる時代。デジタル化で蓄積したデータを活用し、ビジネスの生産性や効率性を上げ、新しい付加価値を創造する企業が競争優位を発揮できると言われている。
現実世界の人や物の動きなどの様々なデータが取得でき、センサーの出荷数も年間で100兆台を超える見通しとなり、取得したデータを処理するハードウェアの計算速度も指数関数的に爆増している。
また、統計学や機械学習技術を活用することで、業務オペレーションの改善や業務効率の向上だけでなく、顧客体験価値の向上や新規ビジネスモデルの創出が加速している。

そんな中で、「企業内でのDX人材(データ活用人材)の必要性」が日々、高まっている。
データサイエンティストのような専門家だけでなく、ビジネスパーソン自身がデータ活用のリテラシーとスキルを求められる時代。 ブレインパッドでデータ活用人材育成サービスを立ち上げ、累計7万人の育成支援を通じてきたからこそ見えてきた、データ活用人材育成が成功するポイントを解説していきたい。

本記事の執筆者
  • データサイエンティスト
    奥園 朋実
    会社
    株式会社ブレインパッド
    所属
    トランスフォーメーションユニット
    役職
    ディレクター
    化粧品通販企業にて新規獲得向けの広告、既存顧客向けの販促部署のマネジメント、データ分析部署の立ち上げに従事。2010 年にブレインパッド入社。大手 EC 通販をはじめ、通信教育・Web サービス・大手化粧品ブランド・アパレル・放送業界・大手 BtoB サプライ等のデータ分析プロジェクトにプロジェクト責任者およびマネジャー、データサイエンティストとして携わる。これまで分析プロジェクトで携わった企業は 40 社以上。受託分析支援に加えて事業会社内のデータ活用促進に向けたコンサルティング支援やデータ分析部署の立ち上げにも従事。近年はブレインパッドのデータ活用人材育成サービス事業の責任者として、企業がビジネス成長するためのデータ活用実現に向けた方針策定や施策支援を、幅広い業界において推進している。

ブレインパッドでデータ活用人材育成サービスを立ち上げるまで

筆者は前職である通販企業の在籍中にデータ分析部署の立ち上げを経験している。当時は紙媒体広告のメディアプランニング、メディアバイイング、広告制作、効果測定といった広告業務のすべてを担当。
大学でデータ分析に関する統計学や機械学習を専攻したわけでもなく、社会人になって初めてExcelを触れたようなレベルだったのだ。
経験と勘と度胸で出稿する媒体と、クリエイティブのプランニングを決めるリスキーな現状に対して疑念を感じた筆者は、過去のレスポンス状況とクリエイティブの関係性を分析して、より効果的で確実性の高い広告出稿の実現。加えて顧客の購買履歴から購入商品の傾向と継続性を把握することで、より安定的な売上基盤に繋げたい一心で上層部に上申すると、「じゃあ、お前がやれ」「え?自分が・・・?」という言ったもの勝ち・言ったもの負けな流れに。 データ分析を本格的にはじめたのは、学問側からの入り口ではなく、ビジネス上の必要に迫られたことがきっかけだったのである。

その後、データ分析部署と既存顧客向けの販促部署のマネジメントを兼務し、データ分析結果を基点に販促施策を企画・実行するサイクルを常に回す経験をした後、2010年にブレインパッドに入社。

入社後は通販企業時代とは一転、クライアント企業の支援側としてデータ分析業務に従事することになる。
クライアントワークを通じて、分析する側のスキルや経験値の重要性に加え、クライアント側のデータ活用やデータ分析へのリテラシー、そもそもデータ分析で何を成し遂げたいのかという課題設定力もプロジェクトを成功させる要素だと強く感じるようになる。
クライアント企業内で、データサイエンティストのような分析の専門家さえいればいいのではない。
現状のビジネス課題に対してどのようなデータ活用・分析を適用すると、どのような改善効果が期待できるか(データ分析で解決できない課題も把握・理解できる)をプランニングでき、そもそも内部で分析すべきテーマなのか、外部に依頼すべきかに加え、外部に依頼する際の課題整理と依頼力、アウトプットされた結果を正しく読み解き、現場活用できるような人材も重要なのである。
このような人材が企業内で活躍することで、日本企業全体の生産性が確実に上がるという想いから、データ活用人材育成 のサービスをスタートさせた。

効果的なデータ活用人材育成を進めるうえで持つべき重要な視点

サービスローンチから8期目に突入し、7万人を越える受講実績と多くの企業研修を手掛けてきた経験から、データ活用人材育成が上手く進む・進まないパターンについて考えてみたい。

人材育成の依頼を受ける際に、「ひとまずデータサイエンティストを育成したいので何とかしてほしい」と言われることがあるが、このケースでは必ずと言っていいくらいに人材育成が上手くいかない。経営層、もしくは直属の上長から「データサイエンティストが必要な時代だから当社でも育成せよ」という指示を受けた場合が多いが、現状のビジネス課題に対するデータ活用の方向性、さらには本来必要となる人材の定義の整理ができていないと言える。

「もっともセクシーな職業」と揶揄されたデータサイエンティストが社内にいれば、何から何まで解決してくれるはず。必要なスキルは理系だから、ひとまず理系人材をアサインすればいい―。このような単純かつ何も整理されていない状況では、たとえ必要なスキルセットの人材を育成、または外部から採用できたとしても、データサイエンティストが活躍することもなく気付けば退職してしまったという悲しい結末になるだろう。

効果的な人材育成を進めるうえでは、ビジネス課題に対してデータ分析で何を成し遂げたいかという視点・プランニングがまずは重要となる。

例えば、
 ①売上の構造を可視化してKPIに対するボトルネックを特定し業務改善したい
 ②売上や需要の将来予測をしたい
 ③予測された未来に対する施策や行動を最適化したい、
というような明確な課題設定が必要になる。 

①の場合には、可視化すべき軸を決められるビジネスサイドの人材や、必要となるデータを整備しBIツールなどで数値化や可視化できる人材が必要となり、②と③の場合には、統計学や機械学習技術に長けた人材が加わり、定期的な運用に向けた仕組み化に長けたエンジニアが必要となってくる。

場合によっては高度なデータ分析はパートナー企業に委託する選択肢も考えられるが、分析で成し遂げたいことの方向性や、実際のビジネス活用に向けた意思決定をする役割は外部の人材ではなく自社人材が担うことが必須と考える。

このように、「何を成し遂げたいのか」によってデータ分析の方向性や必要人材が異なってくるので、データ分析に携わる人材がデータサイエンティストだけに限定されないのである。 最近ではさらに役割分担が細分化されており、ビジネスとデータ分析をブリッジする「アナリティクストランスレーター」や、エンジニアリングとビジネスをブリッジする「データアーキテクチャー」といわれるような役割が一般化されてきている。

加えてデータ分析の情報源となるデータ分析基盤(ソフトウェアとハードウェア)が構築されていることが前提になる。 なお、データ分析の基本は現状の可視化による把握からスタートし、続いて可視化した後の将来予測、予測に対する施策や行動の最適化のステップとなり、現状の可視化を経ずにいきなり最適化にジャンプすることは現実的ではない。

DX文脈で育成すべき階層とは

視点を変えて、DX文脈で育成すべき階層を整理すると、

・DX推進者
先端技術やデータ活用を踏まえた事業モデルを経営視点で創出・運営できるDXを推進する立場、例えば事業マネジャーや事業活動に結び付けるための戦略策定・設計ができる人材、結果を活用しビジネス企画や改善等に活かす人材。

・データ分析実務者
ビジネス課題に対し統計学や機械学習といった専門知識とスキルを駆使し専任でデータ分析業務を遂行できるデータ分析実務者、こちらはデータサイエンティストやAIエンジニアが該当。

・一般スタッフ
データ活用スキルを持ち、効率的に自身のタスク遂行ができる営業・マーケティング、バックオフィス、工場・製造、コールセンターなどの一般スタッフ、大きくこの3階層に分類される。

データ活用をビジネス課題に対して適用すべきか・現場でどのように活用するのかといった、全社を挙げてのDXにおけるデータ活用を効果的に進めるためには、全社的なリテラシーアップが必要になってくる。 その際に、上記のようなどの層を優先的に進めていくかについては、企業の舵取り役となるDXを推進する立場を優先し、その後に分析実務者や一般スタッフ層へ展開するケースが多い。

DX時代の人材育成成功のポイント

当社が人材育成サービスを提供した企業は(比較的大手企業が多いことが前提となるが)、DXにおけるデータ活用の重要性と必要性の理解度が高く、人材育成をドライブする部署に権限と裁量が付与されている。
さらには、データサイエンティストだけでなく、前述したようなDX推進者や一般スタッフを含めた人材育成の推進とゴール設定をしっかりとプランニングできている点も挙げられる。当然、人材育成に投下するお金の考え方も、単なるコストではなくDX時代の生き残りに向けた将来に必要な投資と考えており、某企業の取締役の方曰く、「データ分析と統計学の基礎は読み書き、そろばん同様にビジネスパーソンに必要なリテラシーとスキルだ」とも。

加えて、データ活用人材の育成の企画・実行を担うのが人事部ではなく「DX推進部署」ということが、成功している企業の共通事項となる。

通常のビジネス系や資格取得系の研修は人事部が主導で進めることが一般的であるが、データ活用分野については様相が異なってくる。

DX推進の重要領域として、ビジョン・体制・人材・データ基盤(SoR・SoE)が挙げられることが多いが、人材育成についてもDX推進側が主導し、研修のオペレーションを人事部が担当し分担し連携するケースが、本取組みをスムーズに進めるポイントである。

以上から成功ポイントをまとめると、
・DXとデータ活用で改善すべきテーマやビジョンが明確である
・人材育成を推進する部門への必要な裁量(権限など)がしっかりと付与されている
・自社のデータ活用推進状況に応じた人材育成の役割を明確化できている
・専門のデータサイエンティストだけでなく、DX推進側・一般スタッフといったビジネスパーソン側も含めた人材育成にも着手している
・人材育成に係る費用を将来に必要な投資と位置付けている
・人材育成を推進に向け、DX推進部署と人事部の役割分担と連携ができている

加えて、自社だけで研修などの人材育成を推進・提供することはもはや困難となっており、 パートナー企業との協力が必須となっているが、どこをパートナーとして選定するかの選球眼も重要である点も言及して、本記事を締めくくりたい。

リスキリングの意義などをより深く知りたい方はこちらもご覧ください。
なぜ今「リスキリング」が必要なのか?DX時代に生き残るための、人材育成の考え方と3つのステップ

DX推進に必要な人材に関しては、下記の記事もぜひご覧ください。

関連記事

DX(デジタルトランスフォーメーション)推進に必要な人材とは?スキルセットと日本の現状

DX人材とは?必要な役割やスキル・適正、育成事例を解説

このページをシェアする

あなたにおすすめの記事

Recommended Articles

株式会社ブレインパッドについて

2004年の創業以来、「データ活用を通じて持続可能な未来をつくる」をミッションに掲げ、データの可能性をまっすぐに信じてきたブレインパッドは、データ活用を核としたDX実践経験により、あらゆる社会課題や業界、企業の課題解決に貢献してきました。 そのため、「DXの核心はデータ活用」にあり、日々蓄積されるデータをうまく活用し、データドリブン経営に舵を切ることであると私達は考えています。

メールマガジン

Mail Magazine