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嗜好性レコメンドの裏側~❝感性❞をデータ化し、マーケティングに活かすために必要なこと~

公開日
2022.11.10
更新日
2024.02.22

レコメンドエンジンの活用としても難易度が高いといわれる「嗜好性レコメンド」。

事例をもとに、「嗜好性レコメンドの裏側」や「進化するレコメンドの実態」について、これまでマーケティングコンサルタントとして数多くのプロジェクトを支援してきた、株式会社ブレインパッド・八木理恵子と、同社で執行役員CMO (Chief Marketing Officer)マーケティング本部長を務める近藤嘉恒がディスカッションした対談をお届けします。

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■登場者紹介

  • 株式会社ブレインパッド 執行役員CMO (Chief Marketing Officer) マーケティング本部長 近藤 嘉恒
  • 株式会社ブレインパッド ビジネス統括本部 データビジネス開発部 シニアマネジャー 八木 理恵子

レコメンドツールは魔法のツールではない

ブレインパッド・近藤 嘉恒(以下、近藤)デジタルマーケティングを推進する上で欠かせない「パーソナライズ」ですが、昨今、レコメンドの手法が刻々と進化を遂げています。レコメンドが変化してきている中で、お客様の問いにブレインパッドとして、Rtoasterを通じてどんな回答をしてきましたか?

ブレインパッド・八木 理恵子(以下、八木)レコメンドはサイトを作るうえでのひとつの手段(ツール)に過ぎず、ツールを「サイトのUIやUXを考えたとき」にどう用いて活かすかという観点を大切にしています。しかし、クライアントによっては、ITツールで精度が高いレコメンドシステムを、魔法のようなツールだと思っているケースもあります。そのため、目的を見失わないよう、事前段階の目的設計の段階に立ち戻り、説明することも多いですね。

近藤 目的を「CTR向上」や「購買率改善」に定めたとしても、「ツール単体の機能」では実現することはできないですからね。本質的には「どんなタイミング」で「どんなコンテンツを出す」ことが、消費者にとって「マッチするのか」という考え方の基本思想を整理し、その要素としてUI改善やUX向上などの使い勝手を検討していく流れです。

その中で、レコメンドエンジンを当て込んでいかなければ、レコメンドエンジンそのものの「ケイパビリティへの見方」が歪んでしまいます。

八木 そうですね。レコメンドツール経由の効果を測る場合は、特定のCTRを純粋に追っていけばいいと思います。しかし、見る観点が「全体の売り上げの貢献」であるのならば、それだと歪んだ解釈をしていることになりますね。そのため、サイト全体であればレコメンドコンテンツだけでない、顧客行動導線をトータルで俯瞰して見ていくことを心がけています。

ですので、レコメンドツールはサイトデザインと同様に「サイトを構築する一部」でしかなく、「サイト全体をどう最適化するか」のマーケターは鳥瞰の目をもちつつ、レコメンドは要素の1つとして位置づけしていくと、より有効な活用ができると思っています。

株式会社ブレインパッド
ビジネス統括本部 データビジネス開発部
シニアマネジャー 八木 理恵子

近藤 最近、「自社のレコメンドのあり方を一緒に考えてほしい」という相談案件が増えた印象があります。これは事業会社側の何かが変化した傾向なのでしょうか?

八木 2つあって、レコメンドを「どういう風に活用(=精度向上)すればいいか」という相談と、パーソナライズマッチングの技法の活用として「自社製品への想いの強さをどう反映(=快適な導線)すればいいか」という相談です。

ECでの購買が日常化した今、「消費者の目」が肥えているため、事業会社もレコメンドコンテンツに「意志を込めたい」という期待が高まってきているのかなと、最近仮説を立てることが多いです。

そのため、単純に「レコメンドして、クリックされればいい」という感覚で出している場合と「自社ブランドとして最適化していきたい」という想いが反映されている場合では、やはり、見るデータも、出る結果の見方・捉え方も違ってくると感じます。


レコメンドの4形態

近藤 レコメンドが改めて脚光を浴びているなかで、最近様々なマーケターの方に聞き回ったところ、レコメンドには段階があり、以下のような形態があることに気付きました。

  • 【第1形態】デモグラフィック×購買データ=「A」→レコメンド(機械学習化)
  • 【第2形態】「A」×行動データ=「B」→パーソナライズ(デジマの進化)
  • 【第3形態】「B」×嗜好データ=「C」→パーソナライズ(マーケターのこだわり)
  • 【第4形態】「C」×共感=「D」→パーソナライズ(企業と社会との接合)

【第1形態】は、レコメンドの初歩的運用です。

セグメントを合わせにいくとクリックされやすい傾向が分かってるため、ほぼ全ての企業が取り組んでいます。そして、よりクリックされるために「購買データに加えて行動データの傾向からおすすめを表示」といった機械学習アルゴリズムを活用すれば、【第2形態】に標準機能でも進むことが可能です。

つまり、デジタルマーケティングの「行動データの取得・活用」は、レコメンドエンジンの基本機能で進められます。

【第2形態~第3形態】は、実は進化するにはハードルが高いです。

例えば、「サイト全体として、どんなコンテンツを出してあげたいのか」を考えていくと、通常の行動データではなく、「顧客の嗜好」に着目しなければなりません。

「嗜好データ」は各社各様のデータの持ち方をしており、サイトの商品情報を活用したり、レビュー情報を活用したり、時にはMDや営業の方々の「ノウハウ」を注入することもあります。よって、「嗜好のデータ成形」が必ず入りますが、仕組み化できたときには非常に魅力的なレコメンドに仕上がってくると感じています。関連して、「サイトやビジネスとして、どんなUIを設計したいか」を考えて、デモグラ・購買・行動・嗜好の4つのデータを掛け合わせることで【第3形態】になります。

【第4形態】では、レコメンドの領域をさらに超えた発想を持たれてる事業会社で、嗜好レコメンドを活用しつつ、顧客に対して、【共感を募る(フラッグシップ)】を立てるためのコンテンツ作成に取り組むことになります。ここまで実践していると、コンテンツは商品レコメンドのみならず、レコメンドからブランドマーケティングも含めた世界観をEC内で形成されていますね。

ここのターニングポイントは【第3形態】に行けるかどうかと思っています。

株式会社ブレインパッド
執行役員CMO (Chief Marketing Officer) マーケティング本部長
近藤 嘉恒

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嗜好性レコメンドの実践例:❝味わい❞レコメンド

近藤 「嗜好性レコメンドへの転換」において、八木さんは、いくつかの業種の「嗜好性レコメンド」案件を経験し、提案アプローチもブレインパッドらしく展開した実例がありますね。

時代背景としては、「レコメンド=小売店舗でいう”販売棚”の調整」という手法から、「商品や自社の強みを生かす術」にシフトしてきた時期でもあるのではと感じています。

八木さんが関わった案件の中でどういった契機から嗜好性レコメンドを考えていくことに辿りついたのか、ご意見をお伺いしたいです。

八木 ワインの輸出入販売を行う「エノテカ様」の事例でいうと、担当者の方が「エモいレコメンドをしたい」とずっと仰っていました。実際の「エモさの定義」は教えてくれなくて、そのときは「エモいってなんだろう?」と考えていましたが、もともとワイン好きでもあったので、ワインを体系的に勉強したら徐々に内容が把握できるようになりました。

ワインでいうと、この当時では、顧客からは「すっきり系が好き」「重た目が好き」という情報しかわかりませんでした。例えば、シャルドネが味として「すっきり」かどうかといった情報があっても正直買ってみないとわからないという状況でした。

ネット上ではチャートなどで、「すっきり度」が目安として星マークで書いてあったりします。しかし、その人それぞれで感性・感覚は変わるため、探すときにいろいろ回ったうえでわからず、サイトから離脱することにつながることも少なくありません。

しかし、自分が買うときの感覚や顧客の立場になって考えたときに、どういったサービスがあったらいいのだろう、どういう風に見えたらいいのだろうと考えていくと「味わい」につながっていました。

近藤 消費者としてみたときに、「どのようにオススメされたら自分が納得するか」という点をまずは想起したということですね。

八木 そうです。消費者の立場で考えたときに、ワインを色々眺めるのは楽しいです。その閲覧履歴のみを表示してしまうと、「嗜好性」はバラバラになります。2~3000円のものを見ていた人がいきなり興味本位で10万円の商品を見たりすることもあるため、見たものに対するレコメンドはうまく出ないのが当然ですよね。

そのため、今まで買ったものや好きだったものに対して、似たようなものが出てくる方が顧客の飲みたいと思うものに近づくことになります。

近藤 確かに「オーパス・ワン」をクリックした人は、閲覧履歴レコメンドでは、ずっと❝オーパスワン系のもの❞が表示されます。ただ、憧れのオーパス・ワンを単に「見てみたかっただけ」というケースもよくありますよね。

八木 そうなんです。「見てみたかっただけで、買いたいわけではない」ので、結局購入にはつながりません。

近藤 では、「味わいをレコメンド」するために、どんなデータが必要なのでしょうか。

八木 味わいの「観点」を定めると、ワインは「酸味」「渋み」「甘み」などの味覚にまつわる言葉を想起できます。しかし、ワイン一本ずつに「味覚」に対するデータは商品情報には表記がありません。データがなければ「求めるレコメンドに合わせたワインを出せない」ため、先方の担当者たちにお願いし、ワインソムリエの知識を用いて「一からデータを作成」してもらいました。エノテカさん社員のみなさん、ワインソムリエの資格を持っているので、「店頭で接客するノウハウをデータで立証しよう」という流れになりました。

近藤 商品SKUに紐付いた「商品付帯情報」として、その情報作りを行ったということですね。データが作ることができれば、そこからはブレインパッドが得意なアルゴリズムを用いて、過去相関と新たな生成データの掛け合わせで、独自の【コレだ】という形を出すことが可能になったということですね。

結果として、自社の特徴を体現するレコメンドができ、精度も上がり、また「”味わい”というこだわりがあるから商品表示やサイトとしてもエモくなる」という論理で、面白い取り組みだと思いました。
「味わい」の観点からデータを作り、ワインの専門ECサイトだからこそみんなワイン好きという嗜好がありました。「デジタルワインソムリエ」を実現し、既存の業務をデジタルを用いて変革し、ECに組み込んだという点はまさに「マーケティングDX」といえますよね。

八木 人が「エモい」と感じるには、自分が選んだものと同じようなものが出てくるだけでなく、「面白み」も必要でした。例えば、ワインは最初にフランスのブルゴーニュやシャルドネを飲んだとして、おいしいと思ったら「また同じものを選ぶ」傾向が強い商品です。

しかし、ブルゴーニュの中でも、地域内で味が違うため、最初上の方を買って美味しいと思って下の方を買ってみたら何か違うと思うケースもあります。逆に、ブルゴーニュの涼しい方の地域は涼しい土地同士の特徴が似ているため、もう少し涼しい地域で作られるロワールの方が良いということもあります。

その場合、ロワールとかオーストラリアといった涼しい地域を紹介してあげるとまた違う発見が生まれますよね。また、シャルドネではなくても、涼しい地域のワインが好きなのかもしれないという可能性も生まれます。

エモさを感じてもらうには「顧客にとって新しい発見がある」と思ってもらうことが大切だと把握できたため、その点を追及していきました。

近藤 産地によって味わいがどう違うのかといった部分は、ワインソムリエの人たちや従業員、ワインの規格に詳しい人たち、輸入の商品責任者の間では共通の認識だったといえます。だからこそ、エノテカ様にしてみれば共通認識をデータ化できていなかったこと、オフラインやフィジカルのところでは当たり前に発揮される知見がデジタルでは発揮できなかったことをデジタル化し、デジタルソムリエを作っていこうとなったときに、大事だったのがデータだったということですよね。

八木 まさに「これまでの知見をデータ化する」という点で1つのトランスフォーメーション、「DX」になったといえます。

近藤 ちなみに八木さんが担当したプロジェクトとして、「エノテカ様」の他に、温泉宿の「ゆこゆこ様」もあります。ブレインパッド内でも指折りの「ワイン好き」「温泉好き」の八木さんだからこその取り組みでしたね(笑)。私たち営業・マーケティング側からは、「八木さんの趣味」に案件を充てると【第3形態】ができるということがわかりました。

八木 はい、「好きこそものの上手なれ」ですね(笑)

嗜好性レコメンドのポイント

近藤 ブレインパッドとして行ってきたRtoaster、コンサルティング、データサイエンスの3つのデータ活用が重なってできたものが「嗜好性レコメンド」だと理解しました。

八木 エノテカ様のプロジェクト時に「私の感性はこれで合っていると思うけれど」と導き出したものがソムリエからすると「何か違う」となったことが多く。その違和感を無くしていくことが本質的なエモさに繋がるのだと意識してましたね。

整理すると、「嗜好性レコメンド」のポイントは以下、4つでしょうか。

  1. 今あるデータをどう使うか? (商品マスタ×購買データ)
  2. 足りないデータをどう作るか?(社内ノウハウのマスタ化)
  3. ロジックを頭に浮かべる   
  4. データマーケティング×クリエイティブ

レコメンドに必要なデータというよりも、商品データを起点に「このデータをこういうかたちに活用できないか」というところを着想することが【1つ目】でした。

【2つ目】はデータを作りにいくという点です。 足りないデータをどう作るかというよりも、「何が足りないか」がポイントになります。「何をもって足りないといえるのか・足りないデータをどのような観点から思い浮かべればいいのか」を突き詰めて検討します。

例えば、ほしいデータは、ソムリエやコンシェルジュといったビジネス最前線の人たちが「潜在的に持っている感性」を構造化し、形式知として吐き出すことなんです。

足りないデータを補うためには、「普段の接客」にヒントがありました。そのため、ブレインパッドとしてもその構造化や論理化を行うサポートをしていくことからヒントを探れると思い、よく現地視察に行きました。

近藤 【3つ目】の「ロジックを頭に思い浮かべる」という点は、具体的にどのように八木さんは行ってきたのですか?

八木 今あるデータと足りないデータが整理されることによって、相関があるのかどうかをみて統計的な差異が生じるのかどうかなども含めて回していく。そして、実証化できるかどうかという観点からPDCAを先に回すことを優先しています。変な設計を優先するよりも回しながら、自分の中でもヒントを探すことが大切だと感じてます。元エンジニアということもあり、データベースを眺めているとそこから「創造」「仮説」が思いつく瞬間があるんですよね。言葉では表現しづらいところなんですけど・・・。そこで出た仮説を起点にPDCAを回し、立証していき、構造化をしていく流れですかね。 

【4つ目】は、そこで出来上がったデータを「コンテンツとしてどのように見せる(表示する)のか」という点がポイントになります。 例えば、レコメンドを右ナビに無機質に出すだけではなく、ここにもコントロールするツールが必要ということですね。「こういうこだわりのあるレコメンド」というクリエイティブバナーの創り方・表現も大切になります。また「どのタイミングで誰にどのように出す」といったデータマーケティングの必須プロセスが走ってくるので、ブレインパッドのRtoasterが持つ能力を活かすことができたということですね。

データを正しく貯めること・使うことの価値

近藤 「データ活用」という言葉がデータマーケティング領域でも日常的に注目される時代になりました。そのなかで、特に現在は顧客関連のデータを集約・貯めていくために「CDP導入の動き」も強まっています。しかし、事業会社の声としては、まだまだ活用できていないのが実状です。

八木 データを「正しく貯めること」「正しく使うこと」の価値を考えることが何より重要ですね。データは顧客のものでもあり、自社の資産や価値になるものでもあります。 「データは軽視するものではない」と分かってはいるものの、正しく貯めなければ価値を発揮できません。正しく使わなければ、顧客に対しても 恩恵がなく、自社の利益を生むこともないといいます。

「自社にとって優位なデータ活用」「何ができるのか」を考えるには、やはりデータのみではなく、「人の思考」も必要だなと思います。

近藤 エノテカ様の着想と同様ですね。プロジェクトの範囲や規模、レベルが違うとしても基本的な考え方は大きく変わらないということですね。

八木 CDPに限らず、各種情報を集約する目的の「データレイク」やデジタルマーケティングをサポートする「マーケティングオートメーション」、構造化データの分析に使用する「DWH」など全体的に構築するとそのように考えられます。システム構造整理を目的とするコンサルティングプロジェクトが最近増えてきているのですが、この「システム構造整理の先にあるビジョン」が何なのかがクリアではないケースが散見されます。

データはお客様に価値として還元するものなので、貯めた意義・使う価値が定まらないと、どんな施策を行ったらいいのかという点が分からなくなってしまいます。私が携わるプロジェクトでは、「具体的にどういったことをやっていく予定なのか」を事前にディスカッションしておく事をオススメするようにしています。

そして、それを実現するために「どのような運用体制が必要なのか」を策定しておく必要があることもお伝えします。

やはりマーケティング関連の基盤構築となりますので、大きな金額をかけたとしても、費用対効果を求められますから、コンサルタントとしては「成果を立証できる」ようにしていきたいと心がけています。

近藤 「嗜好性レコメンド」の背景には、プロジェクトの本質的な問い・課題の解決と直結しているということが改めてわかりました。マーケティング実行計画を本質理解がないまま落とそうとすると、納得感のない失敗をを引き起こすことにつながります。それを未然抑止することもコンサルタントの重要なミッションであることがわかりました。

八木さん、ありがとうございました。



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株式会社ブレインパッドについて

2004年の創業以来、「データ活用を通じて持続可能な未来をつくる」をミッションに掲げ、データの可能性をまっすぐに信じてきたブレインパッドは、データ活用を核としたDX実践経験により、あらゆる社会課題や業界、企業の課題解決に貢献してきました。 そのため、「DXの核心はデータ活用」にあり、日々蓄積されるデータをうまく活用し、データドリブン経営に舵を切ることであると私達は考えています。

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