マテリアルズ・インフォマティクスとは?材料開発・研究を加速させるデータの力

[執筆者]
DOORS編集部

ビッグデータやAIなどといった情報処理技術の進展は、製造業をはじめ全ての分野に影響を及ぼすようになっています。
材料開発・研究も、その例外ではありません。情報科学を活用して材料開発を行う「マテリアルズ・インフォマティクス(MI)」の波が押し寄せているのです。

今回は、材料開発の分野が抱える課題、MIの概要、そして今後の日本政府や代表的な企業の取り組みの方向性についてご説明します。

マテリアルズ・インフォマティクスとは?情報科学と材料工学の関係

マテリアルズ・インフォマティクス(MI)は、材料開発のプロセスを大きく変える画期的な方法論として、高い注目を集めています。まずは、MIの概要および世界・日本の取り組み状況を見ていきましょう。

MIとは?材料開発のDX化

MIは、化学産業のようなプロセス系の製造業における製品設計にデジタル技術を活用するものです。ビッグデータ、AI、機械学習などといったデジタル技術の進展により、膨大な数の実験や論文を解析して材料の製造方法を予測するなど、材料開発の効率を向上させる取り組みを指します。

従来の材料開発のプロセスは、技術者の知識・経験・能力に依存していました。ニーズに対して理論計算を行い、既存研究を探して実験を繰り返しながら材料を試作し、物性評価を進める・・・・・・このプロセスには、多くの場合気の遠くなるような手間と時間がかかります。一つの材料開発に数年から10年以上を要することも稀ではありませんでした。

MIは、計算科学や情報科学の力で材料開発のスピードをアップさせる試みです。原子配列のような物性の特性をコンピューター上で計算させたり、あるいは過去のシミューレションデータや論文データを機械学習によって分析させたりすることにより、材料探索を進めます。

最新のデジタル技術を活用している点で、MIは「材料開発のDX化」「データドリブンな材料開発」といえるでしょう。研究者の経験と勘をデータが支えることで、業界の飛躍的な進歩が期待されています。

世界と日本のMIに対する取り組み

デジタル技術やバイオ技術など、最先端の技術・研究から私たちの生活を支える素材まで、材料開発の分野は産業・イノベーションのキープレイヤーであると考えられます。また、MIには個別の企業の枠を超えてデータを共有できる体制づくりが欠かせません。

こうした見方を基に、世界各国ではMIのための研究体制整備が精力的に進められています。MIはもともとアメリカで始まったもので、2011年のオバマ政権下で開始されたMaterials Genome Initiative(MGI)が端緒とされています。翌2012年には、電池材料に関する論文データを基に実験を介さずデータ分析のみで電池材料開発を進め、実験的な結果と同等の結果を導き出すことに成功しました。その後、欧州や中国、韓国などでもさまざまな取り組みが進められています。

日本では、2013年の「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)」がMIに対する国家的な取り組みの始まりでした。2015年には文部科学省の情報統合型物質材料開発イニシアチブ(MI2I)、2016年からは経済産業省の予算事業など、MIの活用による材料開発の高速化を目指す取り組みが続きました。

MIのニーズが高まる背景と今後の方向性

材料科学にイノベーションが求められる背景として、工業素材が日本の輸出産業の要の一つであることなどが挙げられます。MIに対するニーズの内容と、今後の課題についてご説明します。

日本の輸出産業の将来を占うMIの進展

政府資料によると、日本の産業界およびイノベーションにMIが重要である理由を「産業」「基礎」「融合」という3つの観点から説明することができます。

まず産業については、日本の輸出産業の約2割が素材(工業素材)であることです。また世界市場の過半シェアを占めるマテリアル製品も数多く存在しており、材料開発の進展が日本産業の今後に大きな影響を与えることは容易に予測できます。その一方でマテリアル系ベンチャーの伸びが低調であり、イノベーションを支える仕組みやルールが不十分です。

次に、基礎研究において日本は高い国際競争力を維持しています。世界と肩を並べる研究拠点や質の高い研究者が多く在籍しており、良質な材料データも存在しています。ただしそのデータを十分に共有できていない、材料開発関連の論文の国際シェアが質・量ともに下落しているなどの課題も山積しています。

最後に、これまで日本ではビジネスと学術研究を融合させた実績が多いという強みがあります。リチウムイオン電池や青色LEDなど、材料開発・研究が社会変革を牽引した事例があります。こうした強みをMIにおいても活かすことができると政府は考えています。一方、諸外国に比べて進行領域の開拓が不十分であるため、今後力を入れる必要があるでしょう。

以上のように、日本の産業と社会にとってMIが大きな位置づけを担っているといえるのです。

MIの発展に向けた今後の検討課題

今後の取り組みの方向性として、政府資料からはプラットフォーム整備・研究領域の抽出などといった仕組みづくりが読み取れます。

プラットフォーム整備とは、主にデータ共有の基盤整備のことです。MIのためには、良質な材料データを各企業および研究施設の研究者が取り扱える仕組みが欠かせません。政府では、今後データの取り扱いに関する共通指針の策定、データの創出や活用ができる共用施設および設備の整備、データドリブンな研究開発プロジェクトの推進などを進める予定となっています。

また、政府が今後目指す未来の姿や重要技術領域などを踏まえて、推進すべき領域を抽出する試みも行われるようです。「超低消費電力で推進するEco-Society5.0の実現」「高度なデバイス機能の発現を可能とするマテリアル」などの領域を提示して、戦略的に研究を進められるよう仕組みを整えていく方向性が示されています。

日本企業におけるMIの取り組み事例

ここまで政府の取り組みを主にご紹介してきましたが、すでに各企業でMIをめぐる取り組みが進展しています。ここでは4つの企業を代表例として取り上げ、その内容を見ていきます。

旭化成の取り組み

化学業界の大企業は、どこもMIに注力する姿勢を見せています。中でも旭化成は、2019年に発表された中期経営計画で「デジタルトランスフォーメーション」の一環としてMIを強化することを明言し、ほぼ全ての材料開発でMIに活用しています。

研究・開発本部に「インフォマティクス推進センター」を設置して、2021年度末には150名以上のデジタルプロフェッショナル人材を擁する体制へ強化する予定です。研究開発のみならず、営業を含めた現場レベルへの浸透も進められています。

住友化学の取り組み

住友化学でも、中期経営計画においてMIに言及しています。「デジタル革新による生産性の向上」を掲げ、データ駆動による研究開発の効率化・高度化を目指しています。データサイエンティストやデータエンジニアなどの人材確保、データプラットフォームの構築や電子実験ノートの活用を通じたデータ基盤の整備、MIプラットフォームの構築や予想技術の開発によるデータ解析が課題です。

具体的なアクションプランとして、「デジタル革新部」の設立が中期経営計画に記載されています。人材の確保・育成や分析・解析技術の高度化など、MIを含めた「デジタル革新」の中心的な役割を担う予定です。

東レの取り組み

東レも、デジタル活用やDXの文脈でMIについて触れています。「デジタルものづくりによる先端材料研究」と題して、理論計算とデータ科学を駆使したシミュレーションおよびMIによる研究・開発の効率化を進めています。

必要なデータについては、材料試作や社内評価などのプロセスから吸い上げたデータを社内でデータベース化し、これを社内データ基盤として活用する体制を整えています。また顧客評価にVRや3Dプリンタを利用して材料イメージを確認しやすくなるとともに、試作品づくりを高速化できるようになりました。

横浜ゴムの取り組み

横浜ゴムでは、中期経営計画での言及はないものの、MIによる材料開発の効率化を着実に進めています。

2015年には、仮想的なゴム材料のモデル化と弾性率・エネルギーロスなどの力学特性の予測シミュレーションを行うための「多目的設計探査シミュレーション技術」を開発しました。また、2017年にはその膨大なシミュレーション結果をAIによって探索し、目標性能を実現するために重要な微細構造の設計因子とその閾値を短時間で客観的に導き出せるようになりました。

これによって材料開発の工数削減につながるとともに、設計因子が力学特性に影響するメカニズムを解析するためのシミュレーション技術を新たに導入して開発の新アプローチを発見することも可能になりました。

まとめ

MIは、化学産業における材料開発にもデジタル技術が大きな影響を及ぼしている証といえます。組立系の製造業のみならず、プロセス系でもDXがゲームチェンジャーとして業界に期待感と危機感をもたらしているのです。

業界によって「バーチャル・エンジニアリング」や「マテリアルズ・インフォマティクス」などと呼び方は異なりますが、デジタル技術による影響のあり方は類似したところがあるとも考えられます。自業界の動向に加えて、異なる業界のDXについても理解を深めることで、新たな気づきを得られるかもしれません。

(参考)
文部科学省「マテリアル革新力強化のための政府戦略に向けて(戦略準備会合取りまとめ)【概要】」
経済産業省「ものづくり白書 第1部 ものづくり基盤技術の現状と課題 第1章 我が国ものづくり産業が直面する課題と展望 第3節 製造業の企業変革力を強化するデジタルトランスフォーメーション(DX)の推進 2.設計力強化戦略」
知京豊裕「「マテリアルズインフォーマティクスの現状と課題」-海外の動向と日本の挑戦」
旭化成「2人のデータサイエンティストが語るMI推進で描く旭化成の未来」
旭化成「IT、IoT、MIの責任者が語る旭化成のデジタルイノベーション」
住友化学「計算科学の専門家だからこそ出会える可能性」
住友化学「2019-2021中期経営計画」
東レ「DX戦略」
横浜ゴム「横浜ゴム、マテリアルズ・インフォマティクスによるゴム材料開発技術を確立」

WRITER執筆者プロフィール

株式会社ブレインパッド

DOORS編集部

ブレインパッドのマーケティング本部が中心となり、主にDXにまつわるティップス記事を執筆。また、ビジネス総合誌で実績十分のライター、AI、ディープラーニングへの知見が深いライターなど、外部クリエイターの協力も得て、様々な記事を制作中。

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