「リアルな患者像」を、データで描く。帝人ファーマが挑んだ潜在ペイシェントの可視化

公開日
2026.08.05
更新日
2026.08.05

医薬品および在宅医療機器のリーディングカンパニーである帝人ファーマ。患者様のQOL(Quality of Life)向上を目指し、より良い治療サービスを提供しています。

新規事業・新規サービスの開発にも積極的に取り組んでいる同社は、このたびブレインパッドとの協業プロジェクトを実施。Web行動データやSNS、レセプトデータ(診療報酬明細書)を用いて受診前の患者様の行動を理解する「ペイシェントインサイトBI」を活用し、従来の患者インタビューやアンケートではとらえきれなかった、解像度の高い患者像を可視化しました。

本記事では、ペイシェントインサイトBI活用の背景から分析プロセス、さらに今後の展望について詳しくお聞きしました。

本記事の登場人物
  • 宮島 聡史
    Satoshi Miyajima
    会社
    帝人ファーマ株式会社
    2000年に入社し、現在は新規事業開発を担当。医薬品および在宅医療機器を多くの患者様に届けるべく、新規探索を行っている。
  • 石川 晴菜
    Haruna Ishikawa
    会社
    帝人ファーマ株式会社
    2013年入社。自社製品の臨床研究推進や新規サービス開発を担当した後、昨年から現部署に在籍。未受診の患者様や、すでに治療中の患者様のQOL向上に向けた取り組みを模索している。
  • セールス
    安ヶ平 竜褒
    Ryuho Yasugahira
    会社
    株式会社ブレインパッド
    所属
    産業基盤事業部
    インダストリーユニット
    新卒で通信系企業に入社し営業職に従事後、医療系メディア企業にて医療機関・ヘルスケア企業のデジタルマーケティングを支援。ブレインパッド参画後は、主にヘルスケア領域のクライアントを対象に、コマーシャル業務の効率化・高度化やペイシェントジャーニー構築をはじめとするデータ/AI活用の推進を担当。
  • コンサルタント
    権田 夏月
    Natsuki Gonda
    会社
    株式会社ブレインパッド
    所属
    産業基盤事業部
    アナリティクスコンサルティングユニット
    役職
    マネジャー
    技術コンサルタントとしてキャリアをスタートし、主に数理最適化を用いた業務自動化や業務改善構想策定を支援。2022年にブレインパッドに参画し、製造業を中心に可視化・分析・BPR・基盤構築などに従事。2024年からは、ヘルスケア業界に対してMR活動の高度化やペイシェントジャーニー構築をはじめとしたデータ活用支援に注力。

まだ受診に至っていない「リアルな潜在患者像」を求めて

株式会社ブレインパッド安ヶ平 竜褒 (以下、安ヶ平) 医薬品・医療機器を扱う企業がペイシェントジャーニーを把握する手段といえば、アンケートや患者インタビューが中心でした。一方で「ペイシェントインサイトBI」はWeb検索データやSNSによるソーシャルデータ、さらに受診時のレセプトデータを反映した分析が可能になっています。

おそらく解像度の高いペイシェントジャーニーの構築に課題を感じていたため、弊社に声をかけていただいたのかと思いますが───まずは「ペイシェントインサイトBI」を活用したいと思われた背景から、お聞かせください。

帝人ファーマ株式会社宮島 聡史氏(以下、宮島氏) 最大の課題は、新たな患者様をいかに治療へと結びつけるかという点です。治療を継続されている患者様がいる一方で、症状がありながら未受診のままで過ごしている「潜在患者様」も非常に多くいます。

そうした潜在患者様がどのようなことを考え、何に壁を感じているのかを知ることが急務でした。

帝人ファーマ株式会社・宮島 聡史氏
帝人ファーマ株式会社・宮島 聡史氏

安ヶ平 潜在患者様へのアプローチとしては、他にもさまざまな形があるのではないかと思います。今まではどのような対応策を取られてきたのでしょうか?

宮島氏 病院を通じてすでに他の疾患で受診されている方の情報を得たり、健康情報などを提供しているWebサイトを通じて調査するなど、そうした機会が中心でした。しかし自覚症状がない患者様の場合は、どうしても接点が持てません。非常に難しさを感じていました。

株式会社ブレインパッド・権田 夏月 (以下、権田) 潜在患者様にも「治療」という選択肢を届けるために、ペイシェントジャーニーの把握が必要だったんですね。


SNS分析から見えた、アンケートでは拾えない「生の声」

権田 今回は、3つの分析手法によってペイシェントジャーニーを描いていきました。1つめはSNSデータを使い、患者様1人ひとりの“生の声”を聞こうというもの。2つめは、検索データをもとに行動心理を推測するもの。そして3つめは、レセプトデータを元に実際の患者様の受診行動を追いかけるものでした。

同時に離脱してしまうポイントも調査し、すべてまとめてペルソナを設定しました。こうしたプロセスの中で、最も価値を感じていただけた点はどのあたりでしょうか?

帝人ファーマ株式会社石川 晴菜氏(以下、石川氏) 個人的にはSNSデータに価値を感じました。過去に受診後の患者様へアンケートを実施したことがあるのですが、遠慮がちな回答が多く、本音が拾えていないのではと感じていました。アンケートの質問項目を考える際にも「自然と回答を誘導させるような聞き方をしていないか」など、バイアスのかかった調査になってしまう懸念も抱えていたんです。しかし、SNSでは率直な意見が多く見られました。

特に費用面の不安や、受診理由などがリアルに投稿されており、非常に参考になりましたね。「診療科をいくつか渡り歩いて、ようやくたどり着いた」という投稿もあり、そんなケースもあるのかと驚きました。

今までは「家族に受診を勧められた」などの、いわゆる“王道パターン”で受診に至る方が多いと感じていましたが、それ以外のルートを選ぶペイシェントジャーニーを知ることができました。

本音がつぶやかれているリアルな情報と、受診から治療の継続に至るまでの行動データも見ることができ、非常に参考になりましたね。知らないうちに自分自身が持っていたバイアスにとらわれずに、患者様の実態を知ることができたと思います。

帝人ファーマ株式会社・石川 晴菜氏
帝人ファーマ株式会社・石川 晴菜氏(以下、石川氏)

宮島氏 私は検索データの結果が非常に興味深かったです。治療に辿り着くまでの経緯があぶり出されており、どのような関心事を抱えているかも分かりました。そして関心があるからこそ、治療も前向きに継続する傾向がありましたね。

安ヶ平 検索データを紐解いていくと「受診前に自分で治そうとしてみる」という方がいたのも印象に残っています。受診のきっかけが遅れてしまう理由も、データを通じて分かってきたのではないでしょうか。

宮島氏 そうですね。検索をする際に「気になる症状の原因」に関するキーワードを入れて調べる方が多く、その後に「健康グッズ」などのキーワードが出ていました。さらに次の段階で、ようやく専門用語や治療費用、治療制度に関するキーワードが出てくる。そうした行動の変遷がしっかり見えました。

最初に検索する段階で疾患や治療に関する解像度が高ければ、すぐに受診にたどり着けるかもしれませんね。最初に「気になるな」と感じても、治療が必要かどうかは判断できないものです。私たちはすぐに「受診した方が良い」と思ってしまいますが、ほとんどの方は「治療すべきなのか?」と迷いながら進んでいくのだと分かりました。

こうした患者様の興味関心や心理状況が時系列で可視化されると、啓発につながるメッセージにも反映できるようになるかもしれませんね。

権田 SNSデータや検索データが「患者様の心理が読み取れるもの」であるのに対して、レセプトデータは実際の「医療行為の記録」です。そのため、受診から治療の開始、その後の継続・離脱までの行動の流れを追いかけることができます。今回の分析では、最初の診断から治療に進んだ患者様や、受診後に途中で治療をやめてしまった患者様の割合を定量的に把握できました。

性別や年齢などの患者背景によっても離脱率などが異なること、再び治療に戻る「再受診の患者様」もいることなどが分かり、重要な知見が得られたのではないかと思います。

宮島氏 当初は「潜在患者様」を可視化したいと考えてスタートしたプロジェクトでしたが、受診後の患者様のプロセスが見えてきたのは非常に興味深かったですね。


プロジェクトを推進させたスピーディな対応と率直な議論

安ヶ平 弊社と連携しながら今回のプロジェクトを進めてみて、どのような印象をお持ちになりましたか?

石川氏 非常に示唆に富んだ分析結果をいただきましたし、スピーディな対応も高く評価しています。定性的なインタビュー調査が入ると2〜3ヶ月かかってしまうものですが、1ヶ月ほどで最初の分析データを見せていただきました。

宮島氏 打ち合わせの場でも、有意義なディスカッションが多かったです。その場で「こうしたほうが良さそうですね」とアイデアや改善策をご提案いただき、具体化していきましたよね。

最初は漠然としたところから始まったプロジェクトでしたが、打ち合わせを重ねるごとにアウトプットが精緻化されていきました。通常のリサーチプロジェクトよりもかなり短期間で高品質な結果が得られたと感じています。

安ヶ平 弊社からの質問や方向性のすり合わせについても迅速にご回答いただき、大変感謝しています。スピード感のあるやり取りは、プロジェクトの推進力を支えてくださった要因となりました。

権田 実は調査についてはチャレンジングな内容も含まれており、実現の可否が即答できないこともありました。

当初は「受診前の患者様のデータを可視化したい」というところからスタートしましたが、進めていくうちに「受診後の患者様のデータも組み合わせて可視化してみたい」という方向へシフトしていきました。決して簡単ではありませんでしたが、トライしてみると「意外と実現できたな」と。

特に最初の1ヶ月目は積極的にディスカッションを重ね、分析手法を確認しながら進められたことがアウトプットの質を高めたと感じています。まさに一緒にプロジェクトを進めるパートナーとして歩めました。

株式会社ブレインパッド・安ヶ平 竜褒と権田 夏月
株式会社ブレインパッド・安ヶ平 竜褒、権田 夏月

フラットにデータを分析し、見えてきた「別の視点」

権田 ペイシェントインサイトBIによって可視化されたデータを、今後どのように活用したいとお考えですか?

宮島氏 そうですね。患者様の行動を知り、改めて「きっかけがあれば、患者様は受診にたどり着く」と言えるのではないかと感じました。まずは関心を持っていただくために、AIなども活用しながら接点が持てるように工夫していきたいです。

今までの調査は既存の知識や論文、想像に基づいた仮説を持った上で分析に臨むことがほとんどでしたが、調査の設計自体が私たちの“理想”に近づいた誘導的なものになっていたかもしれません。

しかし今回はあえて仮説を立てず、フラットにデータを集めて分析をする形を取っています。その結果、まったく異なる視点からの示唆が得られ、初めて知る患者様の実態が明らかになったと思っています。

石川氏 なんとなく現場では「うすうす予感していた」ことが、データによって可視化されましたよね。「やはりそうか」という確信と、「そこまでわかるんだ」という驚きが混在していました。

帝人ファーマ株式会社・宮島氏と石川氏

安ヶ平 仮説からペイシェントジャーニーを描いていくと、アプローチが単一的になってしまう可能性もあります。全員に共通した情報発信が多くなってしまいがちですよね。

ペイシェントインサイトBIによってよりリアルな「潜在患者様」が可視化されたことにより、パーソナライズされたアプローチを取りやすくなるのではないかと思っています。より自分ごと化していただけるメッセージを届けられるのではないでしょうか。

権田 自分ごと化は、非常に重要なキーワードですね。潜在患者様は、医師や家族に勧められて受診するような”王道パターン”の方ばかりではありません。そういう方々に対し、個別のメッセージを届けることが、将来的な受診につながるだろうと考えています。

御社が直接接点を持てないデータソースへのアプローチや、電子カルテをはじめとする他のデータと掛け合わせた活用方法なども含めて、今後も新規事業の創出に活かせるアウトプットができれば幸いです。

本日はありがとうございました。


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株式会社ブレインパッドについて

2004年の創業以来、「データ活用の促進を通じて持続可能な未来をつくる」をミッションに掲げ、データの可能性をまっすぐに信じてきたブレインパッドは、データ活用を核としたDX実践経験により、あらゆる社会課題や業界、企業の課題解決に貢献してきました。 そのため、「DXの核心はデータ活用」にあり、日々蓄積されるデータをうまく活用し、データドリブン経営に舵を切ることであると私達は考えています。

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