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【シリーズ】マーケティングの意思決定とデータ第7回:意思決定とデータ

執筆者
公開日
2021.09.15
更新日
2024.02.21

マーケティング領域での意思決定とデータとの関わりを論じる本シリーズ。
これまでは、どちらかと言うとデータの側から意思決定を論じてきましたが、第7回である今回は、意思決定の側からデータについて解説します。

本記事の執筆者
  • データサイエンティスト
    佐藤 洋行
    会社
    株式会社ブレインパッド
    役職
    執行役員 トランスフォーメーション担当
    九州大学院修了(農学博士)。大学院でリモートセンシング画像解析を研究。2008年ブレインパッド入社。2014~2017年、Qubitalデータサイエンス取締役(兼任)。プロジェクトマネジャー、データサイエンティストとして幅広いプロジェクトに携わる。2016~2019年多摩大学経営学部経営情報学科准教授を兼任した後に客員教授に就任。株式会社電通クロスブレイン取締役執行役員(出向)を経て、2023年7月より現職。

われわれが行う意思決定とはどういうものか

まず、意思決定というのがどういうものか、簡単な例を使って考えてみましょう。みなさんも、ご自身ならどちらを選ぶか考えてみて下さい。

定価1万円の商品を買おうとしています。どちらのお店で買いますか?

  1. 定価から8%割引で購入できる店
  2. 購入時に、10に1人が当たるくじを引いて、当たればタダ、外れれば定価になる店

このようにまず、意思決定には選択肢があります。そして基本的に、同時にすべての選択肢を選ぶことはできません。この先、このような意思決定の枠組みを意思決定問題と呼びます。

次に、選択肢からいずれかを選ぶ過程について考えてみます。
このような意思決定問題でわれわれがはじめに考えるのは、それぞれの選択肢で何が得られるかということでしょう。

Aの選択肢では、得られるものは非常に単純ですね。1万円から8%値引かれるので、800円(1万円×8%)を得るということになります。

では、Bの選択肢ではどうでしょう?ここでは、得られるものは選択肢に対して1つに決まるわけではありませんので、場合分けが必要になります。くじに当たった場合はタダになりますので、1万円を得るのと同じです。一方で、くじに外れた場合は定価ですので、何も得られない(得られるものは0円)になります。

ここまでをマトリックス(表)として整理すると、この意思決定問題は以下のように表されます。

表. 意思決定のマトリックス表現①

ちなみに、経済学の意思決定理論では、選択後に得られるもののことを「結果」と呼び、ここでのくじの当たり外れのように、ある選択肢を選んだ後に結果に影響を及ぼす(主には制御できない)要因のことを「状態」と呼びます。

これで、意思決定問題の3つの要素が整理されました。しかし恐らく、われわれがこの意思決定をするときには、これにもう一つの要素を加えて考えたはずです。

場合分けがなされたBの選択肢では、両方の場合が同時に起こることはないので、自然とそれぞれの場合が起こる確率を考慮したくなります。
先ほどのマトリックスに加えると、以下のようになります。

表. 意思決定のマトリックス表現②

ほとんどの方は、この意思決定問題を上のように整理して意思決定を行ったのではないでしょうか。経済学の意思決定理論では、これをもう少し単純に表現します。

経済学的な合理性で考えると、人は得られるもの(結果)の価値によって意思決定をするので、状態がどのようであるかは意思決定に影響を及ぼしません。一方で確率は、ある結果が得られるかどうかを判断するのに必要です。そのため、上のマトリックスから状態を除いて、以下のように表現します。意思決定理論ではこれを、「意思決定マトリックス」と呼びます。

表. 意思決定マトリックス

これによって、意思決定問題が、選択肢、結果とその結果になる確率という3要素で単純に表されました。古典的な意思決定理論では、人はこの表を使って、それぞれの選択肢で得られるであろう結果の価値を計算し、その大小で意思決定をするとされます。

この意思決定問題で言えば、結果の金額=結果の価値と考えて、期待値を計算して意思決定する、といった具合です。実は、意思決定マトリックスは、表頭にある結果の数値と表中の確率の数値とをかけ合わせて、行ごとに合計すると、それぞれの選択肢で得られる結果の期待値になるように作られているのです。

それぞれの選択肢で得られる結果の期待値

  1. 0円×0% + 800円×100% + 10,000円×0% = 800円
  2. 0円×90% + 800円×0% + 10,000円×10% = 1,000円

もちろん、すべての意思決定者にとって、すべての場面で結果の金額=結果の価値となるわけではないので、結果の期待値の大小で採用すべき選択肢が決まるわけではないですが、ここでみたような4要素によるマトリックス表現が、意思決定をよりわかりやすく定義してくれることはおわかりいただけたのではないかと思います。


ビジネスでの意思決定

では、ここまでの議論を踏襲して、実際のビジネスでの意思決定がどのように行われるかを見てみましょう。以下のような意思決定問題を例にします。

年中無休で営業してきたとんかつ屋が、週一回の定休日を決めようとしています。何曜日を定休日としますか?ただし、どの曜日にしても、仕入れやバイトのシフトなどには影響しないものとします。

  • 月曜日
  • 火曜日
  • ……
  • 日曜日

さすがに、これだけの情報で意思決定するのは非常に難しいですね。恐らくそれは、意思決定の重要な要素である結果とその結果になる確率とが見当もつかないからでしょう。

しかし実際、ほとんどのビジネスでの意思決定は、この意思決定問題のように、結果もその結果になる確率も与えられていません。実はそこに、意思決定側からみたデータの利用目的が潜んでいるのです。

この意思決定を行うにあたって、ほとんどの方がみたいと思ったデータがあるはずです。もちろん、様々なデータをみたいと思うでしょうが、まず一番にみたいのが、曜日別の平均売上ではないでしょうか。

そこで、過去3年間の曜日別平均売上をグラフ化したものが下図です。

図. 過去3年間の曜日別売上平均

例えば、このグラフだけから定休日を決めるとしたら、みなさんは何曜日を選びますか?ほとんどの方は火曜日を選ばれるのではないでしょうか。

では、火曜日を選ばれたのはなぜですか?私は同じことを、これまで多くの方に尋ねてきましたが、これもほとんどの人が「火曜日の平均売上が小さかったから」と答えられます。

しかし、この意思決定を先述した意思決定理論から捉えると、われわれは「火曜日の平均売上が小さかったから」定休日を火曜日に決めたのではなく、「火曜日の平均売上が小さかったから、今後も火曜日の売上が他に比べて小さくなる確率が高いと考えて」定休日を火曜日に決めたと考えられます。

そして実際、われわれがこの意思決定をしたときには、そのように考えているはずなのです。
なぜなら、われわれは過去にタイムスリップして定休日を決めようとしているのではなく、未来の定休日を決めようとしているからです。であるならば、過去の値が小さかったからというのは、意思決定の直接の理由にはなり得ないのです。

ここで、ひとつのことがわかります。
意思決定側からデータの利用について考えると、データは意思決定に必要な、結果とその結果になる確率とを推論するために利用されるのだということです。

まとめ:意思決定側からみたデータ活用

今回は、われわれのおこなう意思決定がどういうものかを意思決定理論から理解し、それをビジネスに適用しようとしたときにみえてくる、意思決定におけるデータの役割についてお話しました。次回、連載第8回は、意思決定の要素として重要な、結果とその結果になる確率とを、データからどのように導き出せるのか、という点について、もう少し掘り下げてお話しようと思います。

実は前回、今回で本連載を終えようとしているというお話をしました。しかし実際に書いてみると、とても1回で話しきれるものではありませんでした(苦笑)。
ということで、本連載の最終回は、もう少し先とさせて下さい。延長する分、みなさまにより有用な情報をご提供したいと考えていますので、ぜひご期待下さい。

シリーズ】マーケティングの意思決定とデータ

第1回:マーケティングとDX
第2回:マーケティングの意思決定とKPI
第3回:マーケティングの意思決定とKPI
第4回:消費者理解のためのデータ活用
第5回:データとビジネス機会の関係
第6回:数式の果たす役割
第7回:意思決定とデータ
第8回:データによる結果と確率の推定

この記事の続きはこちら
【シリーズ】マーケティングの意思決定とデータ第8回:データによる結果と確率の推定



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