DXに対する日本企業のIT投資傾向と立ち位置の違い
~日米比較調査から読み解く~

[執筆者]
DOORS編集部

デジタル技術の進展に伴い、IT企業に限らずデジタル投資に経営戦略として取り組み、DX(デジタルトランスフォーメーション)を進展させることが企業の競争力維持のために欠かせなくなってきています。その一方で、日本企業は「守りのDX」あるいは「内向きのIT投資」が多く、ビジネスモデル変革や市場・顧客の変化への対応など外部環境把握のためのIT投資が比較的少ないという調査結果も出ています。

今回は、日米企業のDXについて2020年に調査した一般社団法人電子情報技術産業協会(JEITA)の結果を基に、日本企業のDXの傾向について整理します。

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IT予算の見通しの日米比較

DXの推進には、デジタル技術の選定・導入などのためのIT投資が欠かせません。調査では、このIT投資の傾向に関して日米で異なることが分かりました。まずはIT予算の用途の違い、そして日本の課題についてご説明します。

IT予算の用途に見る日本企業の特徴

まず、日米とも過半数の企業が、IT予算が「増える傾向にある」と回答しています。日本では58.1%と、アメリカの71.0%と比較して少ないものの、2017年(52.3%)よりは増加しており、日本でもIT投資に力を入れる企業が増えていることがうかがえます。

しかし、IT予算の用途は日米で明確に異なっています。アメリカでは「ITによる顧客行動/市場の分析強化」「市場や顧客の変化への迅速な対応」「ITを活用したビジネスモデル変革」など、外部環境の把握にIT予算を投じる企業が多い傾向にあります。一方の日本では、「『働き方改革』の実践のため」「ITによる業務効率化/コスト削減」など、社内の業務改善を目的とする企業が多い傾向です。

日本企業におけるIT投資は、いわゆる「守りのIT投資」であると特徴付けることができます。

以前から指摘されていた「技術的負債」の課題

IT投資に偏りがある点は、以前から指摘されていました。経済産業省が2018年に公表した「DXレポート」では、既存システムが「技術的負債」となった結果、戦略的なIT投資に資金や人材を振り向けられていないと指摘されています。

技術的負債とは、短期的な観点でシステムを開発し、長期的に保守費や運用費が高騰している状態です。例えば、古いメインフレームが現在でも残っており、アプリの拡張やデータの抽出が高コストになっていることがあります。またメインフレームをオープン化したのはよいものの、アプリがCOBOLのままで残存しており、JavaやC言語などで再構築されても機能が不足しているケースもあります。

このように、既存システムが残存することで本来不要なはずの運用・保守費を支払い続ける企業が多いのです。この状態を「負債」と表現し、IT投資が「守り」に偏りがちな原因となっていると経済産業省は考えています。

DX推進の日米比較

アメリカのみならず、日本でもDX推進を掲げる企業が増えてきました。その推進の方法や目的などについて、アメリカと比較しながら日本の特徴を見ていきましょう。

取り組む企業が増加した日本

アメリカでは、DXに取り組む企業が半数を超えています。「全社戦略の一環として実践中」「部門レベルで実践中」「実証実験を実施中」の3つで54.6%でした。DXに対する企業の意識の高さを示しています。

日本企業では、「全社戦略の一環として実践中」が11.6%、「部門レベルで実践中」が8.7%、「実証実験を実施中」が7.8%となっています。何らかの形でDX実践を進める企業は合計で4割弱と、アメリカよりやや少ないのですが、前回2017年調査(1割強)より大幅に増えており、この3年間におけるDXの浸透がうかがえます。

「承認」が中心の日本企業経営陣

DXの内実を見ると、日本とアメリカの違いがよりくっきりと見えてきます。DXにおける経営層の関与状況として、アメリカでは過半数(54.3%)が「DXの戦略策定や実行に経営陣自ら関わっている」と回答しています。DX推進に際して、経営者のリーダーシップが発揮されていると推測されます。

一方の日本では、経営陣自らがDXに関わっているのが35.8%であるのに対し、「申請/提案されたDXの戦略や実施に対して承認をしている」が47.6%にのぼります。特定の部門やチームがDXの主要担当者となっており、経営陣の関わり方は比較的薄いと推測されます。

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ビジネスモデルの変革は少ない日本企業

DXの目的について、アメリカ企業では「新規事業/自社の取り組みの外販化」がトップ(46.4%)、「新製品やサービスの開発/提供」が2位(34.9%)となっており、新たな事業拡大のためにDX推進を位置づける企業が多いという結果になりました。

日本では、「業務オペレーションの改善や変革」(41.0%)がトップとなっています。IT予算と同じように、既存業務の改善に重きを置く傾向があると考えられます。

新型コロナウイルスでDXはどう変わったか

コロナ禍で多くの企業がオフィスの閉鎖やサプライチェーンの停滞など、さまざまな影響を受けることになりました。DXのように経営判断を要求されるプロジェクトについても同様と考えられます。DX推進の方向性について、日米で意思決定に違いはあるのでしょうか。

DX推進の方向性を決めかねる日本企業

コロナ禍によるDXの影響について、アメリカでは「DXとして取り組む領域が増え、予算や体制が拡大」がトップとなっています。日本でも同じようにトップとなったものの、「DXに関する予算、体制など、『コロナ前』と大きく変わらない」や「一時的にDXへの取り組みがストップ」と拮抗しています。

JEITAは、この結果を受けて「COVID-19を契機に差が開く可能性」と指摘しています。コロナ禍でリモートワークが増加し、デジタル技術を活用した業務改革やビジネスモデル変革がより求められる可能性がある中で、見逃せない違いと言えるかもしれません。

「ニューノーマル」の時代におけるDX

調査では、ポストCOVID-19の予測についても尋ねています。日本企業では「働き方の大規模な変化」「セキュリティや『信頼』への要求高度化」がトップ2でした。リモートワークの拡大によって、働き方や感染症対策を含めたセキュリティなどへの意識が強いようです。

一方のアメリカ企業では「業務の自動化領域拡大」「データを活用した意思決定範囲の拡大」がトップ2となっており、DXに直結したような未来予測となっています。

コロナ禍は企業変革のチャンスか

JEITAは、デジタル技術の導入による社会全体の最適化を目指すとともに、その実現手段としてのDX推進および「攻めのIT投資」が必要であると考えています。また、政府(特に経済産業省)も企業のDXの遅れを問題視し、推進を促すための環境整備を矢継ぎ早に実施しています。

また、コロナ禍によって企業のDXが加速している(加速していくべきだ)との議論も出ています。2020年にマイクロソフトCEOのサティア・ナデラ氏は「この2ヶ月で2年分に匹敵するほどのデジタルトランスフォーメーションが起こった」と発言し、注目を集めました。長期化するコロナ禍への適応を余儀なくされる中で、企業はこれまで以上にDX推進に注力することを求められる可能性があります。

コロナ禍を企業変革へ結びつけるチャンスとできるかどうかは、今後数年の経営者の舵取りにかかっていると言えるでしょう。

まとめ

DXに関する日米比較調査は、マネージャーや経営幹部の意識の違いを浮き彫りにしてくれています。どちらも「DX推進は重要だ」と考える一方で、既存業務の存在を前提として、その改善に重きを置く傾向のある日本企業、新規事業拡大に結びつけようとするアメリカ企業というのが大まかな違いであると考えられます。 DXは単なるデジタル技術の活用による業務効率化ではなく、製品・サービスやビジネスモデルを変革する試みです。日本企業の関係者は、改めて「何のためのDXか」「DXで何を変えるのか」を考える必要があるのかもしれません。

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(参考)
電子情報技術産業協会「JEITA、日米企業の DX に関する調査結果を発表」
経済産業省「DXレポート ~ITシステム「2025年の崖」克服とDXの本格的な展開~」
経済産業省「デジタルトランスフォーメーションの加速に向けた研究会の中間報告書『DXレポート2(中間取りまとめ)』を取りまとめました」
マイクロソフト「人間の創意工夫と AI の融合で力が高まることが最先端企業の動向で明らかに」

WRITER執筆者プロフィール

株式会社ブレインパッド

DOORS編集部

ブレインパッドのマーケティング本部が中心となり、主にDXにまつわるティップス記事を執筆。また、ビジネス総合誌で実績十分のライター、AI、ディープラーニングへの知見が深いライターなど、外部クリエイターの協力も得て、様々な記事を制作中。

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