【ものづくり白書から読み解く①】日本の製造業におけるDXの課題とは?
「エンジニアリングチェーン」と「サプライチェーン」を実現するデータ活用

[執筆者]
DOORS編集部

経済産業省が毎年作成している「ものづくり白書(製造基盤白書)」では、日本の製造業の現状と課題についてデータ分析を基にした政府の考察が述べられています。近年はDX(デジタルトランスフォーメーション)やデータ活用についての記述量が増えており、経済産業省がそれだけ製造業のDXを重要視していることが伺える内容となっています。

今回は、ものづくり白書の中でも日本の製造業とDX推進に際しての課題についての記載(第1章第3節1.日本の製造業のデジタルトランスフォーメーションにおける課題)を中心に、現状と今後のあるべき姿について整理します。

【関連】DX(デジタルトランスフォーメーション)の意味とは? ITが変える生活とビジネス

製造業にとってDXはどのようなメリットを持つか

IT業界ではない製造業が、DXを進める必要性はどこにあるのでしょうか。白書では、「エンジニアリングチェーン」と「サプライチェーン」の双方に着目してDXのメリットを記述しています。

エンジニアリングチェーンにおける生産性向上

エンジニアリングチェーンとは、製造工程における研究開発-製品設計-工程設計-生産などの連鎖を指しています。IoTやAIなどといったデジタル技術は、エンジニアリングチェーン全体を通じてデータの利活用を進める優れたソリューションを提供し、生産性向上をもたらす可能性があります。

例えば、白書の説明では強化された計算能力やAIなどを研究開発等に活用する「R&D支援」、顧客の仕様データなどを分析することによる「企画支援」、モデルベース開発を始めとする「設計支援」が挙げられています。

サプライチェーンにおける生産性向上

受発注-生産管理-生産-流通・販売-アフターサービスなどの連鎖であるサプライチェーンにおいても、生産性向上をもたらす可能性を秘めています。例えば、工場ごとの繁閑期の平準化などを可能とする「共同受注」、デジタル化により匠の技の継承を容易にする「技能継承」、サプライチェーン連携等による「物流最適化」、顧客の使用データなどを分析することによる「販売予測」、設備・機器の「予知保全」「遠隔保守」などが考えられます。

業務プロセスの連携強化による新たな付加価値創出

重要なことは、エンジニアリングチェーンやサプライチェーン、それぞれの中だけで生産性向上が可能となるだけではなく、両者が結びつくことによって新たな付加価値を創出する点です。

顧客データや売上データなどをエンジニアリングチェーン(企画や設計など)およびサプライチェーン(受発注や生産管理など)へフィードバックできることが前提となります。すると、「生産最適化」さらには「マスカスタマイゼーション」が可能になるだけでなく、「サービタイゼーション」あるいは「ことづくり」といった新たなビジネスの設計もより容易になると白書では述べられています。

白書によれば、製造業における製品の品質・コストの8割は設計段階で決まります。開発が進むにつれて仕様変更の自由度は低下するため、比較的自由度の高い設計段階にどれだけリソースを投入できたかによって、手戻りや修正などの無駄の数が左右されるのです。その意味で、得られたデータを特にエンジニアチェーンにフィードバックすることが、企業競争力の向上に欠かせないと考えられます。

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【関連】DXに必要なのはデータを「蒸留」させるプロセス~巨大流通企業の「サプライチェーンDX」を成功に導く勘所~【後編】

製造業におけるデータ活用の現状

製造業でもDXを推進する必要があるとして、現状はどのようになっているのでしょうか。特にデータ活用について、白書の整理内容を見てみましょう。

「あるべき姿」との乖離

2017年に、政府は “Connected Industries” というコンセプトを提唱しました。これは、データを介して、機械、技術、人などさまざまなものがつながることで、新たな付加価値創出と社会課題の解決を目指す産業の在り方を指しています。

こうした理想像において、データの収集・分析・活用は必要不可欠です。製品や生産技術、あるいは顧客のデータをエンジニアチェーンやサプライチェーンに結びつけることで、初めて生産性の向上や付加価値の創出が可能となるためです。

しかしながら、白書に示された調査結果の数々は、現実と理想像が大きく乖離していることを示しています。データ活用が進んでいないどころか、以前より後退している可能性すら指摘されています。

進まないデータ活用

日本国内の製造業に対して、生産プロセスに関する設備の稼働状況等のデータ収集を行っているか尋ねたところ、データ収集を行っている企業の割合は、2019年12月段階で51.0%とほぼ半数に達しています。しかしながら、2018年12月段階の調査では58.0%となっており、増加するどころかむしろ減少しているとの結果になったのです。

また、稼働状況のプロセス改善や海外工場におけるデータ活用の進捗についても尋ねていますが、著しい進展は見られないとしています。一例として、センサーやITを用いた個別工程の機械の稼働状態の「見える化」、ライン・製造工程全般の機械の稼働状態の「見える化」を実施している企業の割合は、それぞれ22.3%と17.9%であり、前回調査からほぼ変化がありませんでした。             

老朽化したシステムがDXの足かせに

白書では、製造業のDXを阻害する要因として基幹系ITシステムの問題を取り上げています。日本企業の約8割で、複雑化・老朽化・ブラックボックス化した基幹系ITシステムを抱えており、約7割の企業がこうしたシステムをDXの足かせとして認識しています。

足かせになっている理由として、経済産業省の「DXレポート」では「ドキュメントが整備されていないため調査に時間を要する」「レガシーシステムとのデータ連携が困難」「影響が多岐にわたるため試験に時間を要する」などの理由を挙げています。

その結果、日本企業のIT関連費用の約80%が現行ビジネスの維持・運営に割かれており、戦略的なIT投資に資金や人材を振り向けることができていません。レガシーシステムは、それ自体がDXに適さないだけではなく、DXのための投資すら困難にすることにより、直接的・間接的にDXを阻害しているのです。

【関連】DX推進のための基幹システムの要件とSAPユーザーの対応方法

DXが進まないと転落する「2025年の崖」のリスク

日本企業でDXが進展しない場合、日本経済そのものの競争力低下をはじめ、大きなリスクとなることが予想されます。政府は、これを「2025年の崖」と呼んで警鐘を鳴らしています。最後に、「2025年の崖」の内容と回避するための方向性についてまとめます。

レガシーシステムと技術的負債

前述の通り、レガシーシステムが残ったままではIT予算の重しとなり、DXのための「攻めのIT投資」が困難になります。この現状を経済産業省では「技術的負債」として、早急なIT資産の評価と整理を企業に対して求めています。

DXを実現できずにグローバル競争力を失い、システムの維持管理費が高騰し、しかもサイバーセキュリティや事故・災害等によるシステムトラブルやデータ滅失といったリスクも高止まりする中で、その経済損失は莫大なものとなります。

経済損失の現状と今後

現状でもIT人材不足やシステムリスクなどにより、毎年4兆円ほどの経済損失が生じていると考えられています。これは毎年拡大していき、2025年の段階で、経済損失額は最大で年間12兆円に達するとも想定されています。これが「2025年の崖」の正体です。

2025年以降も経済損失は毎年発生し、膨らみ続ける中で、グローバル経済における日本の存在感が薄れることは想像に難くありません。レガシーシステムを整理し、DXを推進することは企業の経営改革に必須であるのみならず、日本経済の今後にとっても極めて重要な意義を持っています。

なお、「2025年の崖」の詳細については、「DXを実現できないと転落する「2025年の崖」とは?政府の恐れる巨額の経済損失」も参照してください。

【関連】DXを実現できないと転落する「2025年の崖」とは?政府の恐れる巨額の経済損失

【ものづくり白書から読み解くシリーズ

・【ものづくり白書から読み解く①】日本の製造業におけるDXの課題とは?「エンジニアリングチェーン」と「サプライチェーン」を実現するデータ活用
・【ものづくり白書から読み解く②】製造業DXで重要とされる「設計力」とは
・【ものづくり白書から読み解く③】製造業に及ぼす5Gの影響は?
・【ものづくり白書から読み解く④】製造業のDXを推進する人材とは?
・【ものづくり白書から読み解く⑤】ダイナミック・ケイパビリティとは?
・【ものづくり白書から読み解く⑥】サプライチェーンにおけるサイバーセキュリティの今

(参考)
・経済産業省「ものづくり白書 第1部 ものづくり基盤技術の現状と課題 第1章 我が国ものづくり産業が直面する課題と展望 第3節 製造業の企業変革力を強化するデジタルトランスフォーメーション(DX)の推進 1.日本の製造業のデジタルトランスフォーメーションにおける課題」

・経済産業省製造産業局「製造業におけるリファレンスケースについて」
・経済産業省「DXレポート ~ITシステム「2025年の崖」克服とDXの本格的な展開~」
・経済産業省「ITの力で中小企業の“経営力”向上へ。経産省のデジタル・トランスフォーメーションが見据える先」

WRITER執筆者プロフィール

株式会社ブレインパッド

DOORS編集部

ブレインパッドのマーケティング本部が中心となり、主にDXにまつわるティップス記事を執筆。また、ビジネス総合誌で実績十分のライター、AI、ディープラーニングへの知見が深いライターなど、外部クリエイターの協力も得て、様々な記事を制作中。

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