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【ものづくり白書から読み解く②】製造業DXで重要とされる「設計力」とは

公開日
2021.03.23
更新日
2024.02.21

DX(デジタルトランスフォーメーション)はIT系の企業のみならず、あらゆる産業に影響を及ぼすものです。もちろん、製造業も例外ではありません。

経済産業省のものづくり白書では、デジタル技術の進展が製造過程に与える影響、そして国内製造業の多くがデジタル技術の進展をうまく取り込めていない現状を分析しています。今回は、その中で挙げられている「設計力」を中心に解説いたします。

※「DX」や「製造業DX」の意味や概要・推進方法といった全体観を把握したい場合は、以下の記事からご覧いただくことをおすすめします。

【関連記事】

製造業の設計力に対するデジタル技術の影響と日本企業の現状

ものづくり白書では、設計工程におけるデジタル技術の重要性が強調されています。まずは設計力の重要性、そして国内製造業における設計工程の現状と課題について整理していきましょう。

製造業における設計力の重要性

まず、製造業とデジタル技術と言えば、ロボットによる開発の自動化や、画像認識技術によるテストの自動化など開発工程の生産性向上が考えられます。しかし、ものづくり白書においては開発工程の前にある設計工程の重要性と、デジタル技術の導入による強化が説明されています。

設計工程が重要な理由は、製品の品質とコストの8割を決定するのがここであることです。開発が進むにつれて製造設備などが確定していくために、仕様変更の自由度は低下します。設計が完了した後になると、仕様変更の余地は極めて限られたものになります。そのため、仕様変更の自由度が比較的高い設計段階が、製品の品質とコストの8割程度を決めると考えられています。

この点を踏まえると、開発の初期段階に資源を集中的に投入して、問題点の早期発見や後工程からの手戻りの防止、品質向上に努めることが非常に重要です。

日本製造業の設計力は上がっていない?

製品設計力や製品設計のリードタイムについて企業に尋ねたアンケート調査によると、この5年間で「あまり変化はない」と回答した企業が過半数に達しています。そして、4割前後の企業が「向上している」「短くなっている」と回答しているものの、決して全体の設計力が向上していると企業関係者には認識されていないことが明らかとなっています。

また、工程設計力についても同じような結果が出ています。6割近くが「あまり変化はない」、4割弱が「向上している」と回答しています。設計力を着実に高めている企業は少なくはないのですが、この5年間で半数を超える企業の関係者は変化を実感していません。

設計力の低下を招く2つの問題

上記のアンケート結果を深掘りすると、設計力の低下に繋がる問題が2点見えてきます。それが、スキルの属人化と技能継承の困難さ、他部門連携の欠如です。

工程設計力が「低下している」と回答した企業にその要因を尋ねたところ、「ベテラン技術者の減少」「属人的な設計プロセス」「間接部門の人員削減」といった人材面の問題についての選択肢が多く選ばれていました。工程設計力が熟練者の個人的な力量に依存しており、熟練者が退職するとそのスキルを後に引き継ぐことが難しいという様子が伺えます。

また、「製造現場との連携不足」も上位に挙げられています。逆に、「向上している」と回答した企業は、その要因として「生産技術、製造、調達といった他部門との連携強化」、「営業、アフターサービスなどから顧客ニーズのフィードバックを強化」が多く選ばれています。他部門との連携が課題であり、これを克服できれば工程設計力の強化に繋がることが考えられるでしょう。


設計力を高める部門間のデータ連携向上

白書では、設計力向上のために部門間の連携、特にデータ連携を強化することが重要と論じられています。データ連携のメリットとその方法についてご紹介していきます。

設計部門と製造部門のデータ連携ができていないリスク

設計力強化のためには、設計部門と製造部門のデータ連携が重要です。ここが連携できていない場合のリスクについて、以下が挙げられています。

・設計部門のデータと製造部門のデータの変換処理に膨大な工数や処理時間が掛かる

・作業工程・設備・治工具などの製造現場の情報が設計仕様に反映できないために製造現場に過度な負担が掛かる

・当初見込まれなかった製造や調達のコストや作業などの情報が設計側に反映されない

・設計部門と製造部門の伝達のミスが発生しやすく、両部門間の打ち合わせを頻繁に行わなければならない

このように、近年では顧客による製品機能要求の高度化・多様化が進んでおり、しかも製品に占める制御ソフトウェアの比率が高まることで製品の複雑化を招いています。外部環境の急速な変化に対して対応するために製品仕様を早急に変更しなければならないケースも増えてきており、連携不足の問題は製造業の競争力を致命的に損ねる可能性もあるでしょう。

データ連携のメリット

部門を超えたデータ連携の確立によって、品質不良の削減やリードタイムの短縮、生産性向上などが期待されます。

具体的には、設計変更による製造現場への影響範囲を確認しながら設計を進めたり、生産管理を変更したりすることが容易となります。また製造部門から原価実績情報をはじめとした製造情報を設計部門へフィードバックすることにより、高精度なシミュレーションが設計段階で可能となります。

デジタル化によるコスト削減効果も可視化されるため、経営層の投資判断や意思決定もしやすくなります。結果として、DX推進の意思決定に繋がる可能性も高まるでしょう。

白書では、データ連携の第一歩として設計部門が設計を行う上で使用する設計部品表(E-BOM)、製造部門が製造を行う上で使用する製造部品表(M-BOM)、そして工程設計情報をまとめたものである工程表(BOP)の共有が挙げられています。

データ連携を向上させるためのヒント

また、白書には部門間データ連携による設計力向上の事例も取り上げられています。

製造業を顧客とする、あるITベンダーでは、IoTの現場データやPLMの製品データと基幹システムの原価データなどを相互連携させることで、経営指標から現場レベルまでの連携を強化して全体最適に繋がる経営改革を促すITソリューションを提供しています。

拠点(部門)や会計期間ごとではなく、製品ごとに原価管理を行う手法の推奨もしています。生産・販売・原価管理といった基幹業務を製造現場や設計工程などと連携させることで、製品開発の全プロセスをITで一元的に管理できるようになります。開発初期段階で、精度の高い原価企画が実現可能です。

このように、原価情報を「架け橋」とすることで、現場と設計、部門と部門のデータ連携を進められるようになります。この事例は、データ連携を強化したい製造業にとってヒントとなるかもしれません。

製品設計にも及ぶDXの波

設計とDXの関係について、白書では「バーチャル・エンジニアリング」や「マテリアルズ・インフォマティクス」などの概念が取り上げられています。最後に、設計におけるデジタル技術導入の現状と課題についてご説明します。

設計・製造・解析を一体化する「バーチャル・エンジニアリング」

バーチャル・エンジニアリングは、CAD・CAM・CAEなどといった製品のデジタルモデルを基に、設計・製造・解析の各データを同期させて検討する手法です。3DCAD自体は1990年代から導入されていましたが、近年ではIoTやAIが加わることでバーチャル・エンジニアリングはさらなる進化を遂げつつあります。

バーチャル・エンジニアリングは、設計と開発をバーチャルの世界で行うことで、試作品を作る手間を省略できます。そのため開発リードタイムが短縮され、迅速な仕様変更や精度が高く最適な仕様の設定が可能となります。

白書では、製造業が競争力を維持・強化するためにバーチャル・エンジニアリングが大きな役割を果たすと指摘されています。

バーチャル・エンジニアリングの体制整備が進まない日本製造業

また、日本の製造業ではバーチャル・エンジニアリングが進んでいないとも指摘されています。

設計図面の作成とデータの受け渡しを3Dデータで行っているのが17.0%にとどまる一方、協力企業への設計指示の半数以上が未だに図面で行われているためです。2D図主体から3D図主体への移行も停滞しており、それどころか3D図から2D図への回帰傾向すらあることが分かっています。

3DCADを利用した設計が進んでいる企業ほど、製品設計力が向上し製品設計のリードタイムが短くなっているという結果も得られています。3DCADを利用してバーチャル・エンジニアリングを進めることが、設計力を高める方法となります。

AIやビッグデータを素材分野にも適用する「マテリアルズ・インフォマティクス」

バーチャル・エンジニアリングは、主に自動車産業や電機産業など、ディスクリート系(加工組立系)の製造業における製造設計を念頭に置いた概念です。しかし、化学産業をはじめとしたプロセス系の製造業でも、デジタル技術の影響は及んでいます。AIやビッグデータなど情報科学の原理を素材分野へ適用する取り組みを、「マテリアルズ・インフォマティクス」と呼びます。

マテリアルズ・インフォマティクスでは、実験や理論計算を効率化する手段として、技術データを活用したアルゴリズムによって新素材の開発を進めることになります。多種多様な、良質かつ大量のデータが必要となるため、さまざまな企業や研究機関同士の協業やオープンイノベーションが進展することも予想されています。

こうしたマテリアルズ・インフォマティクスにいち早く取り組むことで、従来研究者の経験や個人的な直観に委ねられてきた素材開発の研究効率を向上させ、日本の化学産業の競争力強化に繋がることが期待されています。

関連記事

成功ポイントを知る。マテリアルズインフォマティクス実践編

まとめ

デジタル技術の進展は、製造業の設計分野でも「DX」と呼べるレベルの劇的な変革をもたらしています。その一方で日本製造業のデジタル化は遅々として進まないという調査結果も複数存在しているため、今後グローバル経済における存在感の低下を招くという危惧が政府内にあります。

DXやデータ活用は製造業の開発のみならず設計でも急務であること、これらの実現が企業競争力の強化に不可欠であることの理解が重要です。

【ものづくり白書から読み解くシリーズ

・【ものづくり白書から読み解く①】日本の製造業におけるDXの課題とは?「エンジニアリングチェーン」と「サプライチェーン」を実現するデータ活用
・【ものづくり白書から読み解く②】製造業DXで重要とされる「設計力」とは
・【ものづくり白書から読み解く③】製造業に及ぼす5Gの影響は?
・【ものづくり白書から読み解く④】製造業のDXを推進する人材とは?
・【ものづくり白書から読み解く⑤】ダイナミック・ケイパビリティとは?
・【ものづくり白書から読み解く⑥】サプライチェーンにおけるサイバーセキュリティの今

(参考)

経済産業省「ものづくり白書 第1部 ものづくり基盤技術の現状と課題 第1章 我が国ものづくり産業が直面する課題と展望 第3節 製造業の企業変革力を強化するデジタルトランスフォーメーション(DX)の推進 2.設計力強化戦略」
・経済産業省製造産業局「製造業におけるリファレンスケースについて」

この記事の続きはこちら

【ものづくり白書から読み解く③】製造業に及ぼす5Gの影響は?



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2004年の創業以来、「データ活用を通じて持続可能な未来をつくる」をミッションに掲げ、データの可能性をまっすぐに信じてきたブレインパッドは、データ活用を核としたDX実践経験により、あらゆる社会課題や業界、企業の課題解決に貢献してきました。 そのため、「DXの核心はデータ活用」にあり、日々蓄積されるデータをうまく活用し、データドリブン経営に舵を切ることであると私達は考えています。

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