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最新のDX戦略と取組事例とは?『DX白書2023』から読み解く日本企業の課題と対応

公開日
2023.03.01
更新日
2024.03.06

情報処理推進機構(IPA)では、2009年から「IT人材白書」、2017年から「AI白書」を発行し、IT人材や新技術の動向について情報を発信し続けています。2021年には、新たにDX推進の視点から情報を整理した「DX白書2021」を発刊しました。

今回は、その続編となる「DX白書2023」の内容をご紹介します。日米企業の比較調査から見える日本企業の課題と、DX推進の方法について理解を深めていただければ幸いです。

最新のDX推進状況は?調査に見る日本企業のDX推進度

DX白書では、企業へのアンケート調査から企業規模別・産業別・地域別のDX推進度を整理しています。また、アメリカ企業の比較から日本企業ならではの特徴・課題を示しています。まずはDX推進の最新状況を見てみましょう。

「D」は進めど「X」は道半ば

白書では、DXの「D」は進みつつあるが「X」の意味からして理解されていない現状があるとされています。つまり、D=デジタル化については危機意識とともに推進されつつある一方で、X=トランスフォーメーションの意識が薄いために、デジタル技術の活用による組織文化や経営の変革につながっていないということです。

DXは単なる最新IT技術の活用を意味するわけではなく、経営のあり方やビジネスモデルの変革につなげることが重要です。この点はIPAのみならず経済産業省も、繰り返し訴えてきたDXの本質と言えます。

▼DXの定義や意味をより深く知りたい方はこちらもご覧ください

「DX=IT活用」ではない!正しく理解したいDX(デジタル・トランスフォーメーション)とは?意義と推進のポイント

企業規模による推進度の違いと中小企業ならではの課題

複数の調査結果によると、大企業のほうが中小企業より高い割合でDXに取り組んでいる傾向にあります。中小企業では予算やオペレーション上の余裕がないため、DXにリソースを割くことが難しいと推測されます。

例えば、従業員20名以下の企業では、DXに取り組む際の課題として「予算の確保が難しい」と回答する割合が高いとされています。従業員21名以上の企業では人材や企業文化・風土を課題として挙げる傾向が強いことから、規模の小さい企業ほど日々の業務に追われ、DXに予算や人材を投じる余裕がないことがうかがえます。

また産業別で見ると、情報通信業や金融業・保険業ではDXに取り組む企業の割合が半数を超えており、全産業の中で最も高くなっています。地域別では、大都市圏ほどDXに積極的という結果が見られます。東京23区→政令指定都市→中核市→その他市町村と、本社の在籍する都市の規模が小さくなるにつれてDX取り組み企業の割合は低くなっています。

DX推進状況の日米比較

こうした日本企業の現状を、アメリカ企業と比較すると特徴や課題が浮き彫りとなります。

実はDXに取り組む企業の割合自体は、日米でほとんど差がありません。しかし、全社戦略に基づいて取り組んでいると回答した割合で見ると日本企業は10ポイント以上アメリカ企業より低くなっており、日本企業の多くは全社横断的な取り組みとしてDXを位置づけられていない可能性が示唆されます。

また、中小企業のDX推進割合もアメリカ企業より顕著に低く出ています。301人以上の規模の企業では日米でほとんど差がなく、300人以下の企業に限ると15ポイント以上の差がつきました。日本の中小企業におけるDX推進の遅れは顕著です。

さらに、DX推進で成果を挙げた企業の割合もアメリカに大きく劣後しています。

出典:DX白書2023 独立行政法人情報処理推進機構(IPA)

企業DXのあるべき戦略

以上のような現状を踏まえて、DX白書では改めて成果を出すために企業が取り組むべきDX戦略のあり方について説明されています。その内容について簡単に整理します。

DX戦略策定時は「ビジョン→取組領域→プロセス→成果評価」を決める

この見出しの通り、DX白書ではDX戦略の全体像として4つのプロセスを挙げています。

まずDX推進によって達成すべきビジョン=自社のあるべき姿を策定します。次に、取り組み領域および推進プロセスの策定を行います。この際、外部環境がどのように変化しているのか、そしてその変化が自社のビジネスにどのような影響を与えるのかを評価することも必要です。

ここで策定したプロセスを実現するには、人材・ITシステム・データという3つの経営資源の獲得と配置の検討も欠かせません。最後に、DX推進状況を評価し、リソース配分を見直すための仕組み構築を行います。

ビジョン・取組領域・プロセスの策定に際して意識するべきこと

DX戦略は、経営戦略と整合している必要があります。多くのデジタル技術やソリューションが存在する中で、デジタルを軸に戦略を検討・展開させることが新たなビジネスチャンスや成果、あるいは新たな戦略に結びつく可能性が広がっているためです。

取り組み領域として、アンケート調査によると日本企業では「技術の発展」「SDGs」「パンデミック」の3つに多く取り組む傾向があります。これに対して、アメリカ企業では。「プライバシー規制、データ利活用規制の強化」「地政学的リスク」「ディスラプターの出現」の3つが目立ちます。日本企業も、これらのようなグローバルな外部環境の変化に対処することが求められます。

出典:DX白書2023 独立行政法人情報処理推進機構(IPA)

またプロセス推進において、アジャイルの原則に則った取り組みが求められると白書では論じています。ニーズの不確実性が高く、技術の適用可能性も不透明な状況でプロジェクトを推進せざるを得ない状況も多いと考えられます。こうした状況では、アジャイルの意識が重要です。

このアジャイルの原則を組織のガバナンスに取り入れている日本企業の割合も、アメリカに比べて低い調査結果が出ています。

DXに必要な経営資源の棚卸

企業変革のためには、DXを推進できるような経営資源の獲得と活用が必要不可欠です。例えば、組織や人材、技術、費用、データが経営資源として挙げられます。自社にこうした経営資源がどれくらい存在していてどれくらい不足しているか棚卸を行い、不足しているようであれば獲得方法を検討することになります。

日本企業は、アメリカ企業に比べてDX推進を担う責任者や専門部署を用意していないとの調査結果が出ています。デジタル戦略を担うCDO(Chief Digital Officer、最高デジタル責任者)について、アメリカ企業の6割以上が設置しているのに対し、日本企業では2割未満にとどまっていました。また、DX推進をミッションとする専門部署についても、大企業を除いてアメリカ企業より設置していない傾向が見られました。

予算や施策の規模についても傾向は同様で、日本企業では特定部署の小規模なプロジェクトにとどまっており、全社的な取り組みになりにくいと推測されます。経営層のリーダーシップとコミットメントのもと、会社全体の変革につなげる仕組みづくりが課題です。

成果評価とガバナンスの課題

DXに限らず、何かしらの戦略や施策を実行した後に評価し、場合によっては見直しや改善を図ることは重要です。しかしながら、日本企業では「アプリのアクティブユーザー数」「消費者の行動分析」などの成果評価をしていない企業が6割以上に達しています。「従業員の勤務時間の短縮」「コストの軽減率」といった一般的なKPIでも、3割以上の企業が評価対象外と回答しています。

取り組み内容を評価することはもちろん、白書では評価頻度を高めることも求めています。

DX推進に欠かせない人材戦略とは?

最新のIT技術に精通するばかりでなく、自社のビジネスの可能性や課題についても熟知する人材がDX推進には欠かせません。しかしながら、そうした人材をそう簡単に育成ないし確保できるとは考えにくいものがあります。ここではDX白書に記載された人材戦略の実態やあるべき姿を見てみましょう。

DXを推進する人材に関する取り組みの全体像

DXを推進する人材に関する取り組みの全体像を、IPAは「目指す人材像の設定」「確保・獲得」「キャリア形成・学び」「評価・定着化」「企業文化・風土」の5つに区分しています。

出典:DX白書2023 独立行政法人情報処理推進機構(IPA)

まずはDX推進のためにどんな人材が必要か検討し、全社的な共通理解とします。設定された人材像に基づいて人材の確保・獲得を進めるとともに、そうした人材をサポートするためにキャリア形成やキャリアサポートの施策も実施していきます。そしてDX推進を評価する基準を定義してDX推進人材にフィードバックを行うことで、人材の定着化を図ります。こうした取り組みを根付かせるためには、企業文化や風土を変革する必要もあります。

DX白書では、こうした全体像をベースに日本企業における人材戦略やDX推進人材の実態を調査し、結果を評価しています。

【関連】DX時代に不可欠な、データ活用人材を育成するコツとは~累計7万人以上の育成経験を通して見えてきたこと~

人材戦略に見る日本企業の実態

DX推進人材戦略の最初に位置づけられるのは、目指す人材像の設定と社内周知です。こうした作業をアメリカ企業の半数近くが実施しているのに対して、日本企業では2割にも達しておらず大きなギャップが見られます。

DX白書では、このギャップを「必要なスキルやそのレベルが定義できていない」「採用したい人材のスペックが明確でない」、あるいは「人材の『量』が不足している」などの課題につながっていると評価しており、日本企業が早急に取り組むべき施策としています。

人材像設定の遅れは、確保・獲得のみならずキャリア形成・学び(リスキリング)や評価・定着化といった施策の遅れにも関係しています。また、人材戦略に充てた予算の増減に関しても、「大幅に増やした」「やや増やした」が6割を超えるアメリカ企業に対し、日本企業では3割程度にとどまっています。

人材育成におけるリスキリングの実態

DX推進における人材育成の重要性が注目されるのに伴い、「リスキリング」という言葉が使われるようになりました。これは、デジタルリテラシー向上を中心とした「学び直し」を意味する言葉であり、エンジニアやデザイナーに限らず営業やマーケティング担当者をはじめとした幅広い職種でデジタル技術やデータ分析に関する知識や経験が必要になったことが背景にあります。

▼リスキリングの意義などをより深く知りたい方はこちらもご覧ください。

なぜ今「リスキリング」が必要なのか?DX時代に生き残るための、人材育成の考え方と3つのステップ

日本企業でもリスキリングの試みが広まっており、白書によると半数を超える企業が従業員全員ないし選抜者・希望者に対する学び直しの取り組みを行っています。一方でアメリカ企業の9割以上がこうした取り組みを行っていると回答しており、ここでも日米差が見られる結果でした。

白書では、リスキリングの取り組み内容についても調査結果を掲載しています。「企業として学び直しの重要性、投資や支援についての方向を発信する」「学び直しに対する取組や成果に対するインセンティブを与える」など、どの項目でもアメリカのほうが高い割合となっています。特に「ベテラン社員を積極的にローテーションや社内プロジェクトに参加させる」の項目では、日本が25.1%なのに対しアメリカは50.5%と2倍以上の差がついています。

DXを実現するITシステムの要件と技術

DX推進には、ITシステムの整備やシステム連携、データ活用と分析が必要です。DX白書では、あるべきITシステムの要件を改めて記載するとともに、ITシステムの活用状況に関する調査結果をまとめています。

あるべきITシステムの要件とは?

DX実現に適したITシステムの要件として、「スピード・アジリティ」「社会最適」「データ活用」の3つを挙げています。

スピード・アジリティとは、システムの構想・設計・開発運用の俊敏さと臨機応変に軌道修正できる柔軟性を指しています。例えば、アプリケーションを機能単位で分離・独立や疎結合しており、API連携などの技術を活用して容易に接続や切断できるようにシステムを構築することが重要です。

社会最適とは、外部サービスを活用してIT投資額やリスク対策費用などを最適化することで、社内のリソースを競争領域へ投下してビジネスを強化することです。最先端かつ有用なサービスを取り入れる柔軟な風土・文化のもと、ベンダーやサービス提供者とパートナーシップを結ぶことになります。

最後のデータ活用については、データの分析に基づく意思決定や課題の解決を指します。そのためには、企業の内外からデータを収集し、利用しやすい形で蓄積・保存するためのデータ活用基盤が必要です。

ITシステムには、以上のような3つの要件が求められます。

【関連】変革プランナーにとってのDX推進の急所~第2回 DXと今までのIT活用の大きな違い~

DX推進に適したITシステム企画・開発の手法

スピード・アジリティ、社会最適、データ活用という3要件を満たすITシステム企画・開発の手法として、具体的に「デザイン思考」「アジャイル開発」「DevOps」が白書では挙げられています。

デザイン思考は、前工程でユーザー心理への共感と問題定義を重視するとともに、後工程での気づきを前工程に戻って反映させることを前提とした開発手法と考えられています。迅速なサービス開発やユーザーニーズの具体化のために、デザイン思考が注目されていると言います。

アジャイル開発は、大きなゴールはあらかじめ共有しつつ、作業単位を細分化して小さな開発を繰り返す手法です。特に「スクラム」と呼ばれる手法では、ソフトウェアの実装からテストまでを「スプリント」と呼ばれる短期間で実施します。実際の導入に際してはユーザー企業の深い関与が必要など注意点はありますが、成功すればスピード・アジリティを満たせると白書では考えられています。

DevOpsは、これまで分断されていた開発(Development)と運用(Operations)の各担当者がビジネスゴールを共有するとともに、作業を可能な限り自動化することでスピードと品質を担保しつつ柔軟・迅速な開発を目指す考え方です。

以上の手法はあくまで例であり、これらを導入しないとDXを実現できないわけではありません。また、導入したからと言ってDX推進を成功に導くものでもありません。あくまで考え方がDXに適合的なシステム企画・開発の手法だということです。

DX推進に適したデータ利活用技術

データ活用には、前述のようなデータ活用基盤に加えてAIやIoTなどが紹介されています。

データ活用基盤の検討プロセスとして、「データ活用要件の整理」「現行システム整理」「技術動向調査」「システム全体像整理」「全体プラン策定」の5つが挙げられています。

出典:DX白書2023 独立行政法人情報処理推進機構(IPA)

特に、最初の段階でデータ活用要件を整理しておくことが重要です。データ活用の目的や方針を整理するとともに、既存システムのデータ資産棚卸を行い、新しいデータ活用基盤で扱うデータの範囲やセキュリティなどの要件をまとめます。

AIやIoTのような最新のデジタル技術も、データ活用基盤の整理を前提とすると考えられます。白書によると日本企業でもデータ活用は進んでいるものの、売上増加やコスト削減といった成果の創出には至っていないどころか、成果の測定もしていない企業が半数を超えるとの結果が出ています。

DX白書2023が改めて提示する「あるべきDX」と現状課題

初めて経済産業省が「DXレポート」を公表し、日本企業におけるDXの遅れを指摘したのが2018年のことでした。それから4年半が経過したものの、DX白書では「進んではいるもののアメリカよりスピードの遅い日本」の姿が浮き彫りとなっています。

白書では、これまでの政府およびIPAの提言内容をまとめるように、DX推進の方法論がビジョン策定・人材戦略・ITシステム構築など多岐にわたって記載されています。DXレポートでは、2025年以降に年間約12兆円もの経済損失が発生するとして、これを「2025年の崖」と名付けました。その2025年まで残り2年、白書に記載された方法論を参考に、DXを急ピッチで推進することが日本企業には求められていると言えるでしょう。

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2004年の創業以来、「データ活用を通じて持続可能な未来をつくる」をミッションに掲げ、データの可能性をまっすぐに信じてきたブレインパッドは、データ活用を核としたDX実践経験により、あらゆる社会課題や業界、企業の課題解決に貢献してきました。 そのため、「DXの核心はデータ活用」にあり、日々蓄積されるデータをうまく活用し、データドリブン経営に舵を切ることであると私達は考えています。

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