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こんにちは。データ活用によるDX推進を支援する「株式会社ブレインパッド」の近藤です。当DX情報メディア「DOORS」の編集長を務めています。
企業の価値・競争力を向上させるために欠かせない「DX」は、製造業でも様々な形で推進されています。本記事ではそんな製造業DXの定義やビジネスにおける成功事例・DX推進に必要なポイントをまとめているので、製造業DXを自社で取り入れるべきかどうかの判断のヒントになると思います。
現代の製造業は、少子高齢化による人手不足、グローバルな競争の激化、サプライチェーンの複雑化、そして顧客ニーズの多様化といった、かつてないほどの大きな環境変化に直面しています。
このような状況を乗り越え、持続的に成長していくための鍵として「DX(デジタルトランスフォーメーション)」が不可欠です。
本記事では、製造業におけるDXの基本的な定義から、なぜ今DXが必要とされているのか、具体的なメリット、推進する上での課題、そして国内外企業の成功事例までを網羅的に解説します。製造業DXの全体像を掴み、自社の取り組みを加速させるためのヒントが得られると思います。
製造業DXとは、単にAIやIoTなどのデジタルツールを導入することだけを指すのではありません。これらの先進技術を活用して、製品の企画・開発から製造、販売、アフターサービスに至るまでのバリューチェーン全体、ひいてはビジネスモデルそのものを根本から変革し、新たな価値を創出し続けることで競争上の優位性を確立する取り組みです。
経済産業省が発行した「2025年版ものづくり白書」においても、現在の製造業は「産業競争力」「脱炭素」「経済安全保障」という3つの要素を複合的に追求する必要があると指摘されています。
そして、これらの複雑な課題を解決し、企業の「稼ぐ力」を向上させるための重要な手段としてDXが位置づけられているのです。つまり、製造業DXは、変化の激しい時代を生き抜くための経営戦略そのものと言えるでしょう。
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経済産業省の「2025年版ものづくり白書」によると、多くの製造業者がDXの重要性を認識し、既に取り組みを開始しています。特に「アナログ・物理データのデジタル化」や「業務の効率化による生産性の向上」といった、いわゆる「守りのDX」においては、一定の成果を上げている企業が多数見られます。
しかし、その一方で、「既存製品・サービスの高付加価値化」や「新規製品・サービスの創出」、さらには「ビジネスモデルの根本的な変革」といった、企業の競争力を直接的に強化する「攻めのDX」においては、多くの企業が成果を出すまでに至っていないのが現状です。
これは、多くの企業のDXが、部門単位での部分的なデジタル化に留まっており、全社的な変革へと繋がっていないことを示唆しています。今後は、個社の取り組みに留まらず、サプライチェーン全体を巻き込んだデータ連携なども視野に入れた、より高度なDX推進が求められます。
【参考】
2025年版 ものづくり白書|経済産業省・厚生労働省・文部科学省(pdf)
製造業がDXを推進すべき理由は、業務効率化にとどまりません。
現在直面している深刻な課題を乗り越え、将来の成長基盤を築くために、DXは欠かせない取り組みとなっています。
ここでは、ものづくり白書でも言及されている5つの主要な背景から、製造業DXがなぜ必要とされるのかを具体的に解説します。
近年、パンデミック、地政学リスクの増大、頻発する自然災害など、企業活動を脅かす予測困難な事態が常態化しています。このような不確実性の高い事業環境下では、変化を迅速に察知し、柔軟に対応できるレジリエンス(回復力)が企業の存続に不可欠です。
例えば、特定の供給元からの部品調達が突然停止した場合、従来の管理方法では代替先の確保に時間がかかり、生産ラインの停止といった甚大な被害につながりかねません。
製造業DXを推進し、サプライチェーン全体の情報をリアルタイムで可視化することで、異常を即座に検知し、代替生産や調達ルートの切り替えといった対応を迅速に行うことが可能になります。
データに基づいた迅速かつ柔軟な意思決定こそが、不確実な時代を乗り切るための大きな力になります。
米中間の技術覇権争いやロシアによるウクライナ侵攻を背景に、経済安全保障は製造業にとって避けて通れない課題となっています。
特定の国や地域に依存したサプライチェーンは、国際情勢の変化によって寸断されるリスクを常に抱えています。実際に、半導体不足によって自動車産業が大幅な減産を余儀なくされたことは、記憶に新しいと思います。
「2025年版ものづくり白書」によれば、製造事業者の約6割が経済安全保障に関する取り組みを行っておらず、DXや環境対応に比べて遅れをとっている実態が明らかになりました。
製造業DXにより、調達から販売までのサプライチェーンを一元的に把握し、地政学的リスクを分析することで、重要部品や技術の供給網を強化できます。こうした取り組みは、事業継続性を確保するうえで喫緊の課題といえるでしょう。
日本の製造業は、長らく「匠の技」に代表される熟練技術者の豊富な経験と勘によって支えられてきました。
しかし、少子高齢化の進展により、労働力人口は減少の一途をたどり、特に若手の担い手不足と熟練技術者の高齢化・引退が深刻な課題となっています。このままでは、日本のものづくりの根幹を支えてきた貴重な技術やノウハウが失われかねません。
製造業DXは、この課題に対する有効な解決策となります。例えば、熟練技術者の作業をセンサーやカメラでデータ化し、AIで解析することで、暗黙知であった技術を形式知化し、若手への効率的な技術継承を支援できます。
また、ロボットやIoTを活用して単純作業や重労働を自動化・省人化することで、限られた人材をより付加価値の高い創造的な業務に集中させることが可能になるのです。
かつて日本の製造業は、その品質の高さで世界市場を席巻しました。しかし現在では、品質だけでなく、価格競争力や開発スピードにおいても、欧米の先進企業や急速に技術力を向上させている新興国企業との厳しい競争に晒されています。
さらに、GAFAに代表されるような異業種の巨大プラットフォーマーが製造業に参入し、既存のビジネスモデルを破壊する「ディスラプション」の動きも加速しています。
このようなグローバルな大競争時代において、従来の延長線上の改善活動だけでは生き残ることは困難です。
製造業DXを推進し、生産プロセス全体のデータを活用して抜本的な生産性向上やコスト削減を実現するとともに、顧客データを分析してニーズを的確に捉えた高付加価値な製品・サービスを迅速に市場投入していくことが、競争力を維持・強化する上で不可欠です。
世界的な潮流として、気候変動問題への対応と持続可能な社会の実現が求められており、企業に対しても脱炭素化への取り組みが強く要求されています。特に製造業は、国内のCO2排出量の約4割を占めており、サプライチェーン全体での排出量削減が急務です。
GX(グリーントランスフォーメーション)とは、化石燃料中心の経済・社会システムをクリーンエネルギー中心へ移行させることで、経済成長と環境保護を両立させようとする取り組みを指します。製造業DXは、このGXを実現するための強力なエンジンとなります。
工場内の各設備にセンサーを設置し、エネルギー使用量をリアルタイムで監視・分析することで、無駄なエネルギー消費を特定し、生産プロセス全体のエネルギー効率を最適化できます。
これにより、環境負荷を低減しながらコスト削減も実現し、企業の持続可能性を高めることができるのです。
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製造業の活動は、製品が顧客に届くまでのさまざまなプロセスが鎖(チェーン)のようにつながっています。DXを効果的に推進するためには、これらのプロセスを個別に最適化するだけでなく、チェーン全体を俯瞰して変革することが重要です。
ここでは、製造業DXにおいて特に重要となる「サプライチェーン」「バリューチェーン」「エンジニアリングチェーン」の3つの領域について解説します。
サプライチェーンとは、原材料や部品の調達から、製造、在庫管理、物流、販売を経て、最終的に製品が顧客に届くまでの一連の流れを指します。このサプライチェーンにおけるDXは、各プロセスの情報をデジタルで連携させ、全体の最適化を図る取り組みです。
例えば、AIを活用して過去の販売実績や市場トレンドから将来の需要を高い精度で予測できれば、過剰在庫や品切れのリスクを大幅に削減できます。
また、RFIDタグやGPSを使って部品や製品の現在位置をリアルタイムに追跡することで、物流の効率化や納期の遵守率向上につなげることが可能です。サプライチェーンDXは、コスト削減や生産性向上だけでなく、外部環境の変化に強い強靭な供給網の構築にも貢献します。
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バリューチェーンとは、企業の事業活動を「価値(Value)」を生み出す一連の連鎖(Chain)として捉える考え方です。製品の企画・開発、製造、マーケティング、販売、アフターサービスといった各活動が付加価値を生み出し、それらが積み重なって企業の利益となります。
バリューチェーンにおけるDXは、これらの活動全体をデジタル技術で変革し、創出する価値を最大化することを目指します。具体的には、顧客から得られた製品の使用状況データを分析し、次の製品開発に活かすことで、市場ニーズに即した魅力的な製品を生み出すことができます。
また、製品に通信機能を搭載し、遠隔でのメンテナンスや消耗品の自動発注といったアフターサービスを提供することで、顧客との継続的な関係を構築し、新たな収益源を確保することも可能です。
エンジニアリングチェーンとは、製品の企画構想から始まり、設計、試作、解析、そして生産準備に至るまでの一連の技術的なプロセスを指します。この領域におけるDXは、製造業の競争力の源泉である「ものづくり」の基盤をデジタル技術で強化する取り組みです。
従来、紙の図面や2D CADで行われていた設計プロセスを3D CADに移行し、設計データを一元管理することで、設計部門と生産技術部門との間でのスムーズな情報連携が実現します。
さらに、コンピューター上で製品の性能や耐久性を検証するシミュレーション技術(CAE)を活用すれば、試作品の製作回数を大幅に削減し、開発期間の短縮とコストダウンを同時に達成できます。これにより、高品質な製品をより早く市場に投入できます。
製造業DXの推進は、企業に多岐にわたる恩恵をもたらします。
単なるコスト削減や生産性の向上にとどまらず、企業の基盤を強化し、新たな成長機会を生み出す可能性を秘めています
ここでは、製造業DXがもたらす特に重要な5つのメリットの中から、人材不足の解決と新しい付加価値の創出という2つの側面に焦点を当てて解説します。
DXによってデジタル化が進み、自動化や業務効率化が実現すれば、生産時間を短縮できたり、より少ない人員で業務をこなせるようになります。労働人口が減少傾向にある現在において、生産性の向上は多くの業界・企業で求められています。
またデジタル技術を活用すれば、劣化や故障リスクなども予測できるため、予知保全が可能です。工場が止まるリスクを抑えられるため、安定的な供給ができるようになります。
熟練技術者から若手への技術伝承は基本的に、熟練技術者が教育の時間を確保し、指導するのが一般的です。特に製造業においては顕著だと思いますが、こういった「経験を通して身に着けた技術」は、技術指導が抽象的になりやすく、場合によっては技術継承されるまでに膨大な時間やコストがかかります。
しかしデジタル技術が浸透した組織体制となっていれば、これまで熟練技術者の勘や経験に依存していた技術を定量化・一般化できるようになります。属人化からの脱却が可能になるのです。
現在、すでにVRを利用したリアルな訓練をしている企業もあるようです。これにより、本番環境に出る前に多くの練習を積めたり、失敗してもロスがでなかったりと、多くのメリットが受けられます。
このように技術力が必要な製造業において効率的な技術伝承は、人材の力を一早く発揮するために大きく役立ちます。
製造業においてDXを推進すると、データを効率的に収集することができます。ここで得たデータを活用することで、勘や経験という不確かな情報ではなく、データという客観的根拠に基づいた「データドリブンな経営判断」ができるようになります。
他にも、データを可視化できれば、改善すべき問題やその優先順位が明確になったり、需要予測や予知保全などの解析ができるようになったりします。
※データドリブンの意味や詳細については、以下の記事で理解を深められます。あわせてご覧ください。
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製造業が直面する最も深刻な課題の一つが、労働力人口の減少と熟練技術者の高齢化に伴う人材不足です。DXは、この課題を解決するための有力な手段となります。
例えば、画像認識AIを搭載した検査装置を導入すれば、これまで人手に頼っていた製品の外観検査を自動化でき、従業員をより高度な判断が求められる業務へと再配置することが可能です。
また、熟練技術者が持つ勘やコツといった暗黙知を、センサーやウェアラブルカメラを用いてデータとして収集・分析し、「デジタルマニュアル」として蓄積すれば、経験の浅い若手従業員でも短期間で高度な技術を習得できます。
このように、DXは省人化と技術継承を同時に実現し、持続可能な現場運営を可能にするのです。
DXは、既存のビジネスの枠組みを超え、新たな付加価値を生み出す原動力となります。従来の製造業は、製品を販売して終わりという「モノ売り」が中心でした。
しかし、IoT技術を活用し、販売した製品にセンサーを取り付けて稼働データを収集・分析することで、新たなビジネスチャンスが生まれます。例えば、建設機械の稼働データを分析して故障の予兆を検知し、故障が発生する前に部品交換を提案する「予知保全サービス」を提供できます。
これは、製品という「モノ」の価値に、サービスという「コト」の価値を加えて提供する「コト売り」への転換であり、顧客との長期的な関係構築と安定した収益確保につながります。
このように、DXはデータ活用を起点として、新しいビジネスモデルの創出を可能にします。
製造業DXがもたらすメリットは大きい一方で、その推進には多くの企業が障壁に直面しています。これらの課題を正しく認識し、適切な対策を講じることがDXを成功に導くための重要な要素です。
ここでは、多くの製造業が共通して抱える3つの主要な課題について、その内容と解決の方向性を解説します。
多くの製造業では、長年にわたって基幹業務を支えてきた独自のシステム(レガシーシステム)が稼働しています。
これらのシステムは、導入から時間が経過し、度重なる改修によって複雑化し、内部の仕組みが把握しづらくなっているケースも多く見られます。また、部門ごとに最適化されたシステムが乱立し、全社的なデータ連携が困難な「サイロ化」も深刻な問題です。
このようなレガシーシステムは、新しいデジタル技術の導入を阻害し、データ活用を妨げる大きな制約となります。DXを本格的に推進するためには、既存システムを整理・刷新し、データを柔軟に連携できるオープンなシステム基盤へと移行していくことが不可欠です。
DXを成功させるためには、デジタル技術に関する知見と、自社の製造プロセスや業務内容に関する深い知識の両方を兼ね備えた人材が不可欠です。
しかし、そのような「デジタル×製造業」のスキルを持つ人材は市場全体で不足しており、多くの企業が確保に苦戦しています。単にIT部門に任せるだけでは、現場の実態にそぐわないシステムが導入されるなど、DXの取り組みが失敗に終わる可能性があります。
この課題を克服するためには、外部から専門人材を登用するだけでなく、社内の従業員に対してデジタル技術に関する学び直しの機会(リスキリング)を提供し、DX人材を計画的に育成していく視点が重要になります。経営層が主導し、全社的にDX人材育成に取り組む体制を構築することが求められます。
DXの推進には、新しいソフトウェアやITインフラ、IoTデバイス、ロボットといった設備への投資が不可欠であり、多額の初期コストが発生します。特に、資金力に限りがある中小企業にとって、この導入コストはDX推進の大きな障壁となります。また、投資対効果(ROI)が不明確な段階では、経営層が投資の意思決定を躊躇するケースも少なくありません。
この課題に対応するためには、国や地方自治体が提供するDX関連の補助金や助成金、税制優遇制度などを積極的に活用することが有効です。
例えば、経済産業省の「IT導入補助金」や「ものづくり補助金」などを活用することで、導入コストの負担を軽減できます。小規模な取り組みから始めて成功事例を積み重ね、その効果を測定しながら段階的に投資を拡大していくことも有効です。
製造業でDXを推進するには、以下の5つが必要になります。
それぞれの理由を解説します。
製造業DXで設計力を向上させるために、データ連携をスムーズに行える仕組みを構築しておきましょう。
製造業では多くの場合、設計部門と製造部門に分かれています。もし、両者のデータ連携がスムーズに行えなかった場合、以下のような問題が発生します。
このような事態を避けるためにも、データ連携をスムーズに行えるようにしておきましょう。
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製造業DXを効率的に進めるには、個人や部門間の連携を強化する必要があります。
例えば、個人(社員)ひとり一人と連携することで、それぞれが持っている技術を集約でき、ノウハウのデジタル化が図れます。また、部門間の連携を強化することで活用できるデータが増え、分析精度の向上や新たな課題発見などの効果が期待できます。
もし製造拠点が数多くある企業であれば、支社間で連携を強め、有益なデータを共有するなどの施策を行うのも効果的です。
DXを推進するためには、デジタルを扱えるIT人材が必須です。しかし現在、IT人材は不足しており、2030年には79万人もの人材が不足すると予測されています。
DXに関するシステム開発を外部に依頼するのも手ですが、システム開発後も維持や管理などでIT人材は必要です。
また、IT人材にはシステム思考力や数学力などの高い能力が求められます。短期間ですぐに優秀なIT人材は育成できないため、早い段階からIT人材を育成・確保しておくと良いでしょう。
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【ものづくり白書から読み解く④】製造業DXを推進する人材の条件は?
製造業でDXを推進するには?経産省経産省が発信する「観点と企業事例」から読み解く
製造業DXを進める際には、自社に適したツールを導入することが重要です。製造業で活用できるツールは数多くありますが、工場内で利用するツールなのか、マーケティングで活きるツールなのか、などによって内容は大きく変わります。よって、一概に「このツールが良い」というものはありません。
しかし「製造業DXを推進するための4ステップ」の1ステップ目「DX推進の目的を明確にする」を行えば、自社に適したツールは自ずと見えてきます。
導入事例なども参考にしながら適切なデジタルツールを導入するようにしてください。
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製造業でDXを推進するには?経産省経産省が発信する「観点と企業事例」から読み解く
経営層や管理層だけでなく、現場で働く社員にもDX推進の目的や意義が認識されることは重要です。
DXが推進されるにつれて、現場のシステムや業務内容も変化します。その際、組織全体にDXの目的や意義が浸透されていなければ、従業員からの理解がなされず生産性の低下や困惑を招くことになります。
DXの浸透は文化醸成とも言えるくらい大きな取り組みになるので、意識のすり合わせも重要視するようにしましょう。
以下のような人材が、製造業DXの推進に求められます。
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全ての業界に共通しますが、DXに関わる技術の革新スピードは非常に速いため、最新情報へのキャッチアップが必須です。したがって主体的に学び続ける姿勢が関係者には求められます。
先端技術や他企業のDX動向などに常にアンテナを張り、密な情報共有や具体的なアクションへの昇華が鍵を握ります。
DXはデジタルを通じた変革の実現ですが、あくまで目的は「価値を創出し、競争性の優位を確立すること」です。したがって、デジタル面の技術的知見もさることながら、事業スケールのためのビジネス視点も持ちあわせなければなりません。
また、今後DXでも用いられると考えられる「生成AI」を使いこなすための能力として、分析的思考力・創造的思考力・戦略的思考力・批判的考察力が必要と言われています。
このようにDXを推進する人材には、デジタルに関する知識や技術の他にも、ビジネスに関する思考力や考察力が必要なのです。
【参考文献】
経済産業省「生成 AI 時代の DX 推進に必要な人材・スキルの考え方」
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生成AIとは?AIとの違いから仕組みや種類・活用事例まで幅広く解説
既にAIを事業に活用している企業は多く存在しますが、DX推進においてAI活用を取り入れる企業が今後さらに増えると考えられます。よって今後DXを推進する人材は、AI活用における実行力・応用力に長けた人材も需要があると言えるでしょう。AIをうまく使いこなして業務を遂行することは、立派な能力の一つだということです。
例えばトレンドである生成AIですが、経済産業省では生成AIを使いこなすためには以下のような「AIとうまくコミュニケーションをするスキル」が必要だと定義しています。
【参考】
経済産業省「生成 AI 時代の DX 推進に必要な人材・スキルの考え方」
製造業DXでよく活用される4つの技術・システム・ツールを紹介します。
3Dデータは、メタバースやデジタルツインの根幹にある技術であり、データを3D環境に反映することができます。これにより、2Dよりも視覚的にデータを捉えることができます。
3Dデータは、製造業で以下のようなことに活用できます。
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【前編】「3Dデータ活用」の現在地
数理最適化は、数理演算を用いて、特定の条件下で最良の結果を導く計算手法のことです。人が計算するよりも圧倒的に素早く計算を行えるため、素早く正確な計算が可能になります。
数理最適化は、製造業で以下のようなことに活用できます。
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数理最適化とは?機械学習・AIとの違いやビジネス活用事例をわかりやすく解説
5G・無線通信技術は、データのやり取りをする際に利用されます。5Gのような高性能な通信システムによって、大量のデータを素早く送受信できるようになりました。
5G・無線通信技術は、製造業で以下のようなことに活用できます。
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【ものづくり白書から読み解く③】製造業に及ぼす5Gの影響は?
2021年版ものづくり白書が示す製造業の課題とデジタルの可能性とは?
異常検知は、異常な製品や動作があった場合に異常と判断するシステムのことです。膨大な量のサンプルを機械学習して「正常」と「異常」を学び、異常を検知できるようになります。
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機械学習とは?3つの学習手法と知っておきたい活用事例
異常検知は製造業で、以下のようなことに活用できます。
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製造業DXは一般的に、以下の4ステップで推進されます。
まずは、DXを通じた「ゴール(目的)」の設定をします。最終的に何がどのような状態になることを「DX」と定義するのか、明文化することが重要です。具体的であることが好ましいので、何かしらの数値指標を絡めた定量的な目標を定めると良いでしょう。
最初は実施難易度が高くない課題から着手し始めると、スモールサクセスによるDXの必要性の社内周知がスムーズにできるようになるはずです。
ちなみにDXのゴールを定めるためには、そもそも自社の「現状」を認識することも重要です。自社の立ち位置を理解することで、ゴールまでの道筋も立てられやすくなるからです。
自社の現在地を把握する一つの手段として、情報処理推進機構が提供する「DX推進指標」を活用し、分析してみるのも手です。
DXのゴールを設定できたら、DX推進体制を整える必要があります。ゴールから逆算して、必要なリソースを洗い出しましょう。
特にDXの推進人材は重要です。DX推進のプロジェクトマネージャーやビジネスデザイナーといったビジネス側の人材から、データ分析人材・システム開発人材といった技術側の人材まで、幅広い検討が必要になります。またプロジェクト自体を内製化で推進するのか、外部パートナーと連携しながら推進するのかも考慮しましょう。
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また製造業に限らず、DX推進プロジェクトが始まると多くの場合、ビジネスサイドと現場サイドでの温度感にギャップが生まれることがあります。現場からDX化に対する反対意見が出たり、環境の変化に順応できず生産性が一時的に落ちたりするようなケースです。
DXは単なるデジタル化ではなく、事業全体を巻き込んだ「変革」なので、全社的な取り組みになります。その意思を組織全体に浸透させることは、プロジェクトマネージャーや経営陣・代表における非常に重要な役割であることも把握しておきましょう。
プロジェクトチームを中心に、全社的にDXに取り掛かります。DXは部署ごとの短期的な視点ではなく、あくまで全社的な長期的な視点で進めるようにしましょう。
DXプロジェクトを進めていくにつれて、さまざまなデータが蓄積されるようになります。これらのデータの適切に分析・活用することで、業務効率化やビジネスの最適化を図るための打ち手が見えてくるようになるでしょう。
これまで属人化されていた業務が等しく遂行できるようになったり、データから発見した事業の穴を塞ぐための新たな施策を生み出せるようになったりしながら、徐々にDX化が進んでいくことになります。あらゆる意思決定がデータ起点で行われるようになれば、DX化を成し遂げる大きな一歩目です。
多くの企業がDX推進に課題を抱える一方で、積極的な取り組みによって成果を上げている企業もあります。成功事例から学ぶことで、自社のDX推進のヒントを得ることができます。
海外の事例については、「Hannover Messe 2025」で紹介される製造業DXの最新トレンドも参考になります。ここでは、国内の代表的な製造業3社における、DXの取り組みについて紹介します。
大手飲料メーカーのキリンビールでは、長年にわたりビールの醸造計画などを熟練技術者の経験と勘に頼っており、それが業務負荷の増大や技術継承の難しさにつながっていました。
この課題を解決するため、同社はAIを活用した醸造計画の自動化に着手。これまで熟練者が多くの時間をかけて立案していた「濾過計画」や「仕込・酵母計画」をAIが自動で立案するシステムを開発し、全工場に導入しました。 これにより、属人化していた計画業務を標準化し、年間で数千時間の業務削減効果を見込んでいます。
さらに、新商品開発の領域では、熟練技術者の知見を学習した「醸造匠AI」を開発。目指すビールの味から最適なレシピをAIが提案することで、開発業務の効率化と、これまで暗黙知であった技術の形式知化・伝承を推進しています。
【参考】
AIを活用した仕込・酵母計画システムをキリンビール全9工場で試験運用開始
「醸造匠AI」に「レシピ探索機能」を追加し システムの試験運用を開始
空調機業界で世界大手メーカーのダイキン工業は、DX戦略を通じて多様化する顧客ニーズに対応し、デジタル技術を活用したソリューション事業の拡大を進めています。その代表例が、業務用空調機のクラウド型コントロールサービス「DK-CONNECT(ディーケーコネクト)」です。
「DK-CONNECT」は、空調機をクラウドに接続し、PCやスマートフォンから遠隔で監視・制御を一括管理できるものです。空調機の運転状況の確認や遠隔操作だけでなく、照明や換気装置といった他設備と連携させることで、省エネ性、利便性や快適性の向上を実現する代表的なDX事例です。
また、2017年に社内大学「ダイキン情報技術大学」を設立し、空調技術とAI・IoT技術の両方に精通した人材を自社で育成している点も特徴です。ここで育成された人材が各部門の中核となり、新たな事業変革を推進しています。
【参考】
デジタルトランスフォーメーション銘柄2023|経済産業省(pdf)
世界最大手の素材メーカーであるAGCは、DXを企業変革の重要な推進力と位置づけ、競争力の強化に取り組んでいます。
特に化学品プラントにおいては、「プロセスデジタルツイン」を開発・導入しました。これは、実在するプラントの運転データをリアルタイムでシミュレーターに取り込み、仮想空間上にプラントの現在の状態を忠実に再現する技術です。
「プロセスデジタルツイン」技術により、従来は取得が難しかったデータや、リアルタイムでは把握できなかった数値をシミュレーション上で可視化できるようになりました。データに基づいた迅速な状況把握と意思決定が可能となり、プラントの安定した運用に貢献しています。
AGCでは、今後この仕組みを他のプラントへも展開し、オペレーションのさらなる高度化を目指しています。
【参考】
デジタルトランスフォーメーション銘柄2023|経済産業省(pdf)
本記事では、製造業を取り巻く厳しい環境変化を背景に、DXがなぜ不可欠なのか、その定義から必要性、メリット、そして推進上の課題と成功事例に至るまでを包括的に解説しました。
製造業DXは単なるIT導入にとどまらず、デジタル技術を用いてビジネスのしくみを見直し、新たな価値を生み出す経営戦略です。人材不足、国際競争、脱炭素など複数の課題を乗り越えて持続的に成長するには、全社でのDX推進が重要です。DXは容易ではありませんが、データを活用して変化に迅速に対応できる組織に変われば、将来にわたり競争力を維持できます。
貴社の強みと本記事の要点を組み合わせ、どのような競争優位性が得られるかを検討してみてください。
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