SCMとは?サプライチェーンマネジメントが注目される背景と期待される効果を解説

公開日
2023.09.25
更新日
2026.03.11

少子高齢化による人手不足やグローバル化の進展、競争の激化といった経営環境の変化に直面している企業にとって、従来の枠組みを超えた効率化と最適化が求められています。こうした中、注目を集めているのが、サプライチェーンマネジメント(SCM)です。

SCMは製品が作られてからエンドユーザーに届くまでの一連の流れを統合的に管理する手法として発展し、企業は部分最適ではなく全体最適の視点で事業を捉えることが可能となりました。

これにより、コストの削減や収益の増加が具体的な成果として実現できています。

本記事では、サプライチェーンマネジメント(SCM)の概念や成功事例・必要性を解説するとともに、SCMを成功に導くためのポイントについてもまとめました。

目次

SCM(サプライチェーンマネジメント)とは?

サプライチェーンマネジメント(SCM:Supply Chain Management)とは、製品が作られてからエンドユーザーに届くまでの一連の流れ(原材料の調達、製造、物流、販売、消費)を管理し、全体の最適化を目指す経営手法のことです。

サプライチェーンを表した図

あらゆるビジネスは製品やサービスを販売することによって成り立っており、それら製品やサービスがユーザーに届くまでにはさまざまな関係者・過程が存在しています。この供給の連鎖は、一つの企業、現場では完結せず、複数の企業や現場によって形成されることが一般的です。

製品を販売する場合には、製品の仕入れや製造が必要であり、製造する場合は原材料や部品の仕入れもあります。この仕入元も別の企業から仕入れているという供給の連鎖構造が存在します。このような連鎖がサプライチェーンであり、モノだけでなく、業務のつながりや情報なども供給対象に含みます。

サプライチェーンマネジメントはこれら全てを管理の対象とします。多数の企業・現場におけるさまざまな工程を経ながらも、スムーズに製品が提供されるためには、精密なサプライチェーンマネジメントが不可欠です。他にも、生産リードタイム短縮、在庫管理コスト削減、多品種少量生産、トレーサビリティの実現など、サプライチェーンマネジメントには多くの役割があります。


SCMの歴史

これまで、SCMはどのように発展してきたのでしょうか。その歴史と進化について紹介します。

SCMの誕生

1982年(1983年とも)にコンサルティング企業のブース・アレン・ハミルトン社が初めてSCMという言葉を用いたとされています。しかし、それに先行してQR(Quick Response)やECR(Efficient Consumer Response)といった生産プロセスの見直しが行われており、今に至るSCMのルーツとなりました。

「モノを作り、売る」という流れの中で供給の連鎖が生まれ、その管理は重要視されていたため、SCMという言葉が生まれる前からその原型は形作られてきたと考えられます。

SCMが企業間に浸透

企業におけるITの導入は当初メインフレームによる基幹システム構築がメインでした。ネットワークが構築され拠点間、企業間でのデータの連携が可能になると、ITシステムを使ってSCMの仕組みが構築されるようになっていきました。ITによって、サプライチェーンの中での連携をスムーズにし、業務の効率化を実現したのです。

技術向上によるSCMの変化

インターネットが普及し、IT基盤が多くの企業で導入されるようになると、サプライチェーンを構成する企業全体が接続できる環境が整いました。これらのネットワークは、より細やかな供給の制御を実現しました。

さらに、一般ユーザーにもインターネットが普及し、情報の増加はニーズの多様化やウェブ経由での受注など市場にも変化を起こしました。SCMは、ウェブを通じた購入への対処として細やかな対応が求められるようになってきています。


SCMが注目される背景

近年、SCMの構築や最適化が注目を集めています。さまざまな要因がありますが、代表的なものとして下記の背景が挙げられます。

人手不足の解決策

人口減を根底として、日本国内の労働人口は今後も減少する見通しです。サプライチェーンの中でも結節点をマネジメントする人材の不足は顕著ですが、特に経験が必要なポジションであるため、人材を補うのは容易ではありません。

加えて、日本政府による政策により労働の形態は変化しつつあります。例えば働き方改革関連法案の政策によって、2024年より労働者の安全等を目的として「自動車運転業務を対象とした時間外労働の上限規制」、「労働者の拘束時間、休息時間、連続運転時間などについての新たな基準」が適用されました。

トラックドライバーなどの稼働時間短縮が図られるため、特に物流などの領域で継続的に労働力を確保することが難しくなる問題が発生しています。人手不足の発生が顕著である物流業界では、事業の継続だけでも難易度は高まるでしょう。

リクルートワークス研究所のレポート※1によると、輸送ドライバーは2030年に約38万人、2040年には約100万人の労働供給不足に達すると推定しています。

そこで、人手不足への対応にSCMが注目されています。SCMを導入すれば、サプライチェーン全体での進捗状況の共有や、関連企業間での連携強化が可能となり、業務効率化に向けて取り組めるからです。SCMにより供給網の効率化、最適化を行い、労働力の減少を補うことが不可欠な施策となっています。

※1 未来予測2040

グローバル化と競争環境の変化

近年は、国内経済の成長が鈍化し、内需が頭打ちの状況です。さらに、インターネットやECの普及によって、海外のグローバル企業の国内市場への参入も強まっています。

消費者は多くの情報を持つようになり、比較対象や競争相手が世界的な企業であるというケースが増えました。国際的な競争力維持のため、SCMによる業務の最適化、細かな変化への対応が重要視されています。

顧客ニーズの多様化とスピード対応

インターネットを介し、多くの情報にアクセス可能となり、消費者のニーズは多様化しました。従来の画一的な製品やサービスでは満足されず、個々の嗜好に合わせたカスタマイズや、ニッチな需要への対応が求められるようになっています。細かなニーズへの対応に、多品種で少量生産を実現するSCMが必要です。

消費者の安全性に対する意識も高まっています。「いつ、どこで」生産され、「どのように」運ばれて、その配送状況までも知るトレーサビリティの確保には、サプライチェーン全体での対応が欠かせません。製品の原材料から最終消費者まで、すべての工程を可視化し追跡できる仕組みが信頼性の向上につながります。

消費者の考え方の変化として、モノの所有にこだわらずサービスとして利用できれば良いという考え方も浸透し、より速く利用したいニーズへ対応したSCMが求められます。即日配送や時間指定配送など、スピードと柔軟性を兼ね備えたサプライチェーンの構築が、顧客満足度の向上に直結する時代となっています。

SCMを導入するプロセスごとのメリット

SCMを導入することによって、各プロセスにおいてどのようなメリットがあるのでしょうか?購買・調達、生産、販売・物流、返品という各プロセス別に、SCM導入によって向上が期待できる主要KPI(重要業績評価指標)を整理すると、サプライチェーン全体での改善効果を体系的に把握できます。

1. 購買・調達プロセス

商品やサービスを製造するためには、原材料を購買・調達する必要があります。購買・調達プロセスでは、原材料の品質やコスト面が重要であり、安定して適切な原材料を調達し続けられる仕組みは欠かせません。

SCMの導入により、購買・調達プロセスでは需要予測の精度が向上し、適切な発注量とタイミングの管理が可能になります。サプライヤーとの情報共有が円滑になることで、在庫の過不足を防ぎ、調達コストの削減につながります。また、複数のサプライヤー情報を一元管理することで、価格交渉力が強化され、最適な調達先の選定が迅速に行えるようになります。

さらに、部品や原材料の供給状況をリアルタイムで把握できるため、供給リスクの早期発見と対応が可能となり、事業継続性の向上にも貢献します。これにより競争優位な製品を提供できるようになり、市場での評価が高まるでしょう。

2. 製品生産プロセス

原材料を調達できたら製品を生産するプロセスに移ります。高品質の製品を低コストかつ迅速に生産できる体制が必要です。

生産プロセスにおいては、需要と供給のバランスを最適化することで、生産計画の精度が大幅に向上します。在庫情報と販売予測をもとに生産量を調整できるため、過剰生産による在庫コストの増加や、生産不足による機会損失を防ぐことができます。

また、製造工程の各段階における進捗状況や品質データを可視化することで、ボトルネックの特定と改善が迅速に行えるようになります。設備稼働率の向上やリードタイムの短縮も実現でき、全体的な生産効率の向上につながります。

市場のニーズや目的、企業の方針に応じた検討が重要です。大量生産が必要であれば、大規模なシステム構築が必要で、多様な製品開発が必要な場合は、柔軟な生産工程を構築します。

3. 製品販売・物流プロセス

顧客に製品を販売し届けるプロセスです。製品に合わせた販売チャネルや配送方法を適切に選択することが求められます。

販売・物流プロセスでは、需要予測と在庫の最適配置により、顧客への納期短縮とサービスレベルの向上が実現します。配送ルートの最適化により輸送コストを削減でき、配送状況の可視化によって顧客への情報提供も充実します。

また、販売データと在庫情報の統合により、欠品リスクを最小限に抑えながら、在庫回転率を向上させることができます。さらに、各拠点の在庫状況を把握することで、拠点間の在庫移動を効率的に行い、全体最適を図ることが可能になります。

顧客満足度の向上、欠品を減らし、納期遵守率の向上によって、顧客へ安定供給が実現し信頼を高められます。物流コストの最適化により、輸送ルート、配送計画を効率化し、ムダな輸送費、保管費を削減できます。

4. 欠陥製品の返品プロセス

顧客からの製品の返品プロセスに対応できる体制の構築も必要です。リバースロジスティクスと呼ばれるこの領域も、SCMの重要な構成要素となります。

返品プロセスにおいては、製品のトレーサビリティが向上し、不良品の発生原因を迅速に特定できるようになります。返品データを分析することで、品質改善に向けた具体的な対策を講じることができ、将来的な不良品の発生を抑制できます。

また、返品処理の標準化と自動化により、処理時間の短縮と顧客満足度の向上が実現します。返品在庫の管理も効率化され、再販可能な製品の識別や適切な廃棄処理の判断が容易になります。返品・交換プロセスが整備されれば、顧客への対応スピードが向上します。製品ロットや流通経路の追跡が容易となり、欠陥の原因特定と再発防止策の実施を迅速に行えます。

SCMを導入するデメリット

SCM導入にはデメリットもいくつか挙げられます。どのようなデメリットがあるのでしょうか。

1. 導入までの工数

SCMシステムの導入には、現状業務の分析から要件定義、システム設計、開発、テストまで、多くの工程を経る必要があります。既存の業務プロセスを見直し、標準化や再設計を行う作業には、関係部門との調整や合意形成に時間を要します。

また、既存システムとの連携やデータ移行作業も複雑で、想定以上の工数がかかることが少なくありません。通常、中規模企業でも導入完了まで6ヶ月から1年以上を要し、大規模企業ではさらに長期間のプロジェクトとなります。

この期間中は通常業務と並行してプロジェクトを進める必要があり、現場への負担も大きくなります。プロジェクトメンバーは日常業務をこなしながら、会議への参加、要件のヒアリング対応、テスト作業などに時間を割かねばならず、一時的に業務効率が低下する可能性もあります。

2. 導入時のコスト

SCMシステムの導入には、ソフトウェアライセンス費用、ハードウェアインフラの整備費用、カスタマイズ開発費用など、初期段階で多額の投資が必要となります。特に、既存システムとの統合やデータ連携のためのインターフェース開発には予想以上のコストがかかることがあります。

また、コンサルタント費用やシステムインテグレーターへの委託費用も高額になりがちです。さらに、導入後の保守・運用体制の構築や、従業員への教育訓練費用も考慮する必要があります。

中小企業にとっては、この初期投資の負担が導入の大きな障壁となることがあります。投資対効果を慎重に見極め、段階的な導入を検討するなど、自社の財務状況に応じた計画が求められます。

3. 導入効果が低い可能性

自社の業務プロセスや課題に適合しないツールを選定してしまうと、期待した効果が得られない可能性があります。機能が豊富すぎて使いこなせない、逆に必要な機能が不足している、操作性が悪く現場に定着しないといった問題が発生することがあります。

また、データの精度や更新頻度が不十分な場合、システムの出力結果の信頼性が低下し、意思決定に活用できなくなります。導入目的が曖昧なまま進めてしまうと、投資対効果の測定も困難になり、継続的な改善活動につながりません。

例えば、グローバル展開を視野に入れていない企業が多言語対応の高機能システムを導入しても、その機能を活用できず投資が無駄になる可能性があります。そのため、ツール選定時には十分な検証期間を設け、自社の要件との適合性を慎重に評価することが重要です。

SCMを導入して成功した事例

サプライチェーンの最適化に向けて、弊社ブレインパッドがパートナーとして取り組んでいる成功事例について紹介します。

配送ルートやトラックの積載を最適化

米小売り最大手のWalmartは、他の小売企業向けに「Route Optimization(配送ルート最適化サービス)」を開始しました。AI技術を活用し、配送ルートやトラックの積載を最適化することで、サプライチェーン業務の効率化とCO2排出削減に貢献しています。

従来は経験や勘に頼っていた配送計画を、データドリブンなアプローチに転換することで、燃料コストの削減と配送時間の短縮を同時に実現しました。また、トラックの積載効率を向上させることで、必要な車両台数を削減し、環境負荷の低減にも貢献しています。

現場プロセスイノベーションにデータを活用

現場プロセスイノベーションを主力事業とするパナソニックコネクト株式会社は、サプライチェーン領域を対象としたビジネスを加速させています。サプライチェーン内のどこに本当の問題が潜んでいるのかを発見するにはデータ活用が不可欠であり、データ分析による課題解決に取り組んでいます。

サプライチェーン領域を対象としたインダストリアルエンジニアリングは業務プロセスの標準化であり、データの利活用はその実証に必須です。仮説を立てたボトルネックの検証に、データを集めてAIで分析するという位置づけです。テクノロジーの活用は今後のSCM強化に不可欠と考えています。

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年間1,400時間の業務時間削減を実施

キリンビール株式会社は社内外の環境変化による需給業務の複雑化を課題としており、物流コスト削減、業務負荷の軽減、業務効率化による自社の経済価値向上、CO2削減などの社会的価値の創出を目的としてSCMの最適化を実施しています。

第一弾は資材管理アプリの導入で、年間1,400時間の業務時間削減を見込んでいます。スモールサクセスから企業全体で実感を持ってサプライチェーンの改革を推進中です。

第二弾は、製造計画作成アプリを導入し、約70%の業務時間の削減と年間1,000時間以上の創出を見込みます。この成功体験を起点として、他の業務領域への展開も計画されており、段階的にSCM全体の最適化を進めています。

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SCMを成功させるポイント

ここからは、SCMの構築・最適化を成功させるためのポイントを紹介します。データ活用によるDX推進を支援する弊社ブレインパッドは、SCMにおける数々のDX支援を伴走させていただきました。それらの経験を踏まえた内容も併せてご紹介しています。

データの標準化・データガバナンス

SCMでは、サプライチェーンを形成する多くの企業間でデータの連携を行います。この際、データの粒度やフォーマットを合わせ、統一した処理ができるよう標準化や、サプライチェーン内でデータを共有し、共通解釈を読み取れる環境が必要となります。そのため、データのフォーマットや粒度などを含めた調整を行うデータガバナンスが重要です。

ここで言及するデータガバナンスとは、企業がデータを収集し活用するうえでの方針、ルールを意味しています。データを扱う実作業であるデータマネジメントに対して、効率的に成果を上げることとリスクを最小化するための大枠を定めることがデータガバナンスです。企業間のパワーバランスなどに影響されることなく、適正なデータの統制が求められます。

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最適なデータ活用を地道に解決する「プロの目」を取り入れる

SCMの構築ではデータの取り扱いが重要であり、データの収集から蓄積、活用に至るまでノウハウが存在します。自社の業務の専門家でも、自社のデータ活用に関するノウハウを持つわけではありません。外部のデータ活用のプロの目を取り入れることが一つの解です。

「データ活用のプロの目を取り入れる」とは、例えば次のようなシーンが該当します。

  • 対峙している問題がどのような類の問題か見分け、それに応じた適切なアプローチを取っていく
  • 「どこに難所があり、どこから手をつけるのが効果的か」といった実情を把握
  • 「きれいなデータ」の整備
  • サプライチェーン「全体」のデータの把握
  • データ活用のグランドデザインから地盤固めまでを見通す

データと向き合うことは非常に地道ですが、粘り強く先入観を持たずにデータに相対するプロが業務に大切な観点を与えてくれます。

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「文化・価値観」「仕事のやり方や進め方」を柔軟に取り入れる

サプライチェーンは複数の企業により形成されていることが多く、文化や価値観はさまざまです。また、同じ業務でも仕事のやり方や進め方が異なることも少なくありません。パートナーと仕事をする場合も同様で、自社とは異なる価値観や推進が生じるものです。

自社と異なる文化や価値観と相対した際は、否定的に捉えず、新たな選択肢が提示されていると捉えましょう。自社の価値観とやり方と比較し、良いと思える考え方と方法は柔軟に取り入れることが大切です。

経営陣を巻き込む「丁寧でわかりやすい説明」を意識する

SCMの構築は関連する業務範囲も広く、他社も巻き込んだ取り組みとなるため、全社的な協力が必要不可欠です。経営視点でも重要な施策であり、協力体制の構築にも経営陣の果たす役割は重要となります。経営陣を上手に巻き込むことも成功への重要なポイントの一つです。

例えば、AIを利用した需要予測の実施を経営陣にプレゼンする場合、AIやデータの収集、またDXそのものについても必ずしも十分な理解があるとは限りません。複雑な説明では興味を持ってもらうことが難しいため、丁寧にわかりやすく説明することが必要となります。

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業務変革に向けた意識を浸透させる

SCMの実現に動けばこれまで漠然と行っていた業務も「SCM全体を形成するワンステップ」として捉えられることになります。

つまりそれぞれの担当領域で働く従業員ひとりひとりが、SCMによる効率化や価値向上に対する期待を持つことが求められます。もしその意識が浸透しない場合、適切なデータ収集に対する協力体制が構築されにくくなるからです。結果的に蓄積データの精度が低くなり、期待した成果が上がらない事態につながります。

業務変革の意識浸透を図るための取り組みとして、最も基礎となるのは丁寧なコミュニケーションです。業務に影響の出る各部門や経営陣まで含めて、進捗や成果を共有しながらプロジェクトを進めることも大切なポイントとなります。また、スモールスタートでの成功体験を作り、DXへの意識のハードルを下げることも一つの施策です。

スモールサクセスから大きな領域へステップする

SCMは仕組みが大きく、全体での成果を出すには時間が必要です。周囲からの理解を深め、成果を実感しながら最適化させていくには、小さな分野から取り組みをはじめます。

まずは成果を出すこと。スモールサクセスがSCMの構築、最適化による効果を周囲に知らしめ、大きな領域での成功につながります。

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強いチーム作り

SCMには現場業務、IT部門、関係先や社内の調整ができるベテランなど幅広い人材が必要です。業務を標準化して、成果を測定できるデータの活用まで、あらゆる面での対応ができるチーム作りも成功に向けるのもポイントとなります。データを取り扱うプロを外部に求めるなど、すき間のない強いチームが求められるでしょう。

ビジネスとして収益性を重視した施策を実施する

SCMを構築し最適化する目的は、最終的には継続可能な事業環境を作り、収益を上げることです。ESGの実現など社会的意義も企業にとっては重要ですが、あくまでビジネスとしての収益が大切です。

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サプライチェーンのどこで問題が起きているのか見極める

サプライチェーン上のどこかに問題がある場合、当然ながら問題点を分析して対処することが必要です。サプライチェーンは複数の企業や業務領域をまたがり複雑に構成されているため、問題の本当の原因を突き止めるのが難しいことを認識しておく必要があります。

原因究明に大いに役立つのがSCM上のデータの活用です。仮説の裏づけとしてデータによる検証を行うことは、インダストリアルエンジニアリングでも基本的な考え方といえます。

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SCMを導入する手順

SCMを効果的に導入するためには、計画的なアプローチが必要です。ここでは、導入プロセスを4つのステップに分けて解説します。

1. 導入する目的の明確化

SCM導入の第一歩は、何のために導入するのかという目的を明確にすることです。自社が抱えている課題を洗い出し、課題解決のためにSCMが有効であるか検討します。

在庫削減、リードタイム短縮、コスト削減、顧客サービス向上など、具体的な目標を数値化して設定します。例えば、「在庫回転率を20%向上させる」「配送リードタイムを3日短縮する」といった定量的な目標を掲げることで、後の効果測定がしやすくなります。

経営層と現場が共通認識を持ち、どのプロセスに課題があり、どの程度の改善を目指すのかを明確にすることで、プロジェクトの方向性が定まります。また、目標達成までのマイルストーンを設定し、段階的な導入計画を立てることも重要です。SCMで課題解決ができると判断できれば、導入を検討し達成すべき目標を明確にして具体的な管理方法を決めていきます。

2. 専任担当者の決定

次に、SCM専任の担当者を決定し、プロジェクトやチームを編成することが不可欠です。SCM導入プロジェクトを成功させるには、専任のプロジェクトリーダーやチームを編成することが必要となります。

購買、生産、販売、物流など各部門から適切な人材を選出し、部門横断的なチーム体制を構築します。専任担当者は、プロジェクト全体の進行管理、関係部門との調整、経営層への報告など、多岐にわたる役割を担います。

可能であれば、SCMやシステム導入の経験者を配置することで、プロジェクトの円滑な推進が期待できます。また、日常業務との兼ね合いを考慮し、プロジェクトメンバーの業務負荷が過度にならないよう配慮することも重要です。担当者の具体的な業務内容については、後述する「SCM実現に必要なリソース」の項目内の「人材」に詳しく記載しています。

3. ツールやサービスの選定

自社の業務要件や導入目的に合致したSCMツールを選定します。SCMを導入するための必要ツールやサービスを選定する際には、さまざまなツールやサービスがあるので自社に適したものを比較検討して選定しましょう。

クラウド型かオンプレミス型か、既製品かカスタマイズ開発かなど、さまざまな選択肢の中から最適なものを選びます。ツールやサービスの選び方としては、まず自社の業務プロセスとの適合性を最優先に評価します。次に、既存システムとの連携可能性、将来的な拡張性、操作性の良さ、ベンダーのサポート体制、導入実績などを総合的に検討します。

複数のベンダーから提案を受け、機能面だけでなく、操作性、拡張性、サポート体制、コストなどを総合的に評価します。可能であればPoC(概念実証)を実施し、実際の業務データを用いて効果を検証することが望ましいです。PoCによって、導入前にシステムの有効性を確認し、本格導入時のリスクを軽減できます。

4. 効果測定と改善

システム導入後は、設定したKPI(重要業績評価指標)に基づいて定期的に効果を測定します。SCMを導入した後には具体的にどのような効果が得られたか、また事前に決めた目的や課題をどの程度解決できたか効果測定を行います。

在庫回転率、リードタイム、欠品率、コスト削減額など、具体的な数値で成果を評価します。期待通りの効果が得られていない場合は、原因を分析し、業務プロセスの見直しやシステム設定の調整を行います。

効果測定によって分析をして、改善点が見つかった場合には次の実行計画に改善策を含めます。また、現場からのフィードバックを積極的に収集し、継続的な改善活動を推進することで、SCMの効果を最大化していきます。一度始めに決めた内容でそのまま続けるのではなく、PDCAを繰り返しながら、改善を受けて新たな計画を立てて実行していくようにしましょう。

SCM実現に必要なリソース

ここからは、SCMを軌道に乗せるために必要なリソースを解説します。本格的なSCMの最適化を検討する際は、以下のようなリソースが必要になることをイメージしつつ、今後のビジネス戦略の参考にしてみてください。

専門技術(予測・最適化・自動化・データ収集など)

SCMを効果的に運用するためには、需要予測、在庫最適化、物流自動化などの専門技術が不可欠です。特にAIや機械学習による需要予測は、従来の経験則を超える精度を実現します。

また、IoT技術を活用してサプライチェーン上のデータをリアルタイムに収集・可視化することで、迅速な意思決定が可能になります。

以下に主な専門技術を挙げました。

  • 製造業におけるデータ分析からの需要予測
  • 物流、配送業における効率的な配送ルートや、最適な在庫や発注の物量予測
  • SCM内の業務オートメーション
  • RPAなどのオートメーション技術
  • SCM内のあらゆるポイントでのデータの収集
  • IoT、センサーとデータの収集、蓄積

データ活用に紐づいた専門技術やツールの活用は不可欠です。需要予測や配送ルート最適化といった代表的な専門技術について、以下の記事で詳しく語られているのであわせてご覧ください。

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人材

SCMはシステムだけでなく、人の運用力によって成果が左右されます。データ分析に強い担当者や、サプライチェーン全体を俯瞰できるマネジメント人材の確保が求められます。

また、サプライヤーや物流パートナーなど、外部企業と協働できるコミュニケーション能力も重要な要素です。

主に必要とされる人材の役割と概要をまとめました。

  • プロジェクトマネージャー:デジタルなSCM構築を推進するリーダー
  • 業務部門のエキスパート:自社業務を調達から出荷まで通しで説明できる業務担当
  • データサイエンティスト:データ分析によるビジネス戦略の意思決定を担う
  • 実務担当者、オペレーター:SCMのシステムを操作して、自社企業の求める業務を実現する運用担当者
  • 先端技術エンジニア他:SCMの構築、データの適切な活用などを支援するパートナー

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その他コスト

形態や方式によっても変わりますが、SCMの導入には各種のコストが必要になります。

以下の表にコスト項目と概要をまとめました。

コスト項目

概要

PoCのためのコスト

実証実験(PoC:Proof of Concept)を行い、小さな範囲から成果が出るかどうかを検証するための費用。

初期費用

SCMシステムの構築、導入費用。データの収集状況や業務の変革内容などで大きく異なる。

ランニングコスト

システムの保守・運用費用、クラウドサービスの利用料、継続的な改善のための費用。セキュリティ対応なども含む。

教育コスト

従業員が新しいSCMシステムを利用した業務に習熟するためのトレーニング費用。概念や利用方法についての教育が必要。

PoCのためのコスト

SCMシステムの利用に関して、小さな範囲から成果が出るかどうか試しながらプロジェクトを進めるケースが一般的です。まずは実証実験を行い、成果の検証をするためのコストが必要です。

初期費用

それぞれの領域におけるSCMシステムの構築、導入費用が必要となります。データの収集状況や業務の変革内容などで大きく異なるところです。

ランニングコスト

各種システムは構築後もメンテナンスやアップデートが必要となります。例えば、新たな脅威が次々と現れるセキュリティ面での対応は継続的に行わなければなりません。

SCMシステムを利用した業務などについての教育コスト

業務が変わることについて、「なぜ」という説明がなければ本当に使いこなすことはできません。自社および関係する企業などに向けて、概念や利用方法についての教育が必要です。

まとめ|SCMで持続的な競争力を築く

労働人口の減少やビジネスモデルの変化によって、SCMによる事業全体の最適化のニーズは高まってきています。グローバル化の進展、顧客ニーズの多様化、環境への配慮など、企業を取り巻く環境は複雑化の一途を辿っており、従来の部分最適では対応しきれない状況となっています。

しかしSCMは長期的な取り組みになるので、必要なリソースや専門人材、そして多くのコストを要します。本記事で解説したように、導入までの工数、初期コスト、人材確保など、さまざまな課題を乗り越える必要があります。加えて一朝一夕で乗り越えられる課題は少なく、より戦略的なプロジェクトの推進が求められるでしょう。

成功のポイントとしては、データの標準化とガバナンスの確立、専門家の知見の活用、経営陣の巻き込み、スモールサクセスからの段階的展開などが挙げられます。また、導入目的の明確化、専任担当者の決定、適切なツール選定、効果測定と改善というステップを着実に踏むことが重要です。

データ活用によるSCMの最適化には、需要予測、配送ルート最適化、生産計画最適化など、専門的な技術とノウハウが必要となります。お困りの際は、データ活用によるSCMプロジェクトの推進・支援パートナーのような外部リソースを上手く活用し、まずは相談してみるのも一つの手段です。

実験計画最適化や生産計画最適化といった専門的なソリューションを活用することで、より効果的なSCM実現が可能となります。自社だけで全てを抱え込むのではなく、適切なパートナーと協力しながら、持続的な競争力を築いていくことが、これからの時代における企業の成長戦略として不可欠といえるでしょう。

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